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エッサイ

2014 / 05 / 13

ささやかな日々

ささやかな日々

連休前の日曜日、学生たちと湖西の砂浜に出かけた。空はどこまでも晴れ上がって、澄んだみずうみが広がっていた。

四月で二年目に入ったゼミを盛り上げようと、ゼミ長が企画したバーベキューパーティだった。講義中はなんとなく影の薄い男子学生たちも、
こういう場になると、俄然、張りきって頼りになる。肉や飲み物の買い出しから調理まで、「やっぱりゼミに入れといて、良かったな」と思わせるほどの活躍ぶりだった。

ただ、バーベキューの火を起こすのには、ひと苦労だった。そのうち、女子学生たちが砂浜に散らばっていた松ぼっくりをかき集めてきて、それを付け火にくべたところ、
それまでまったく無反応だった炭に、チラチラと赤いものが見え始めた。網の上にタンを並べ終わったあと、みんなで乾杯した。
買い出し係いわく、「奮発して、ちゃんとした肉屋で買ったんですからね」というカルビは、いつも大学の生協の庭先でやるバーベキューのものとくらべて、各段においしかった。

仕上げの焼きそばもすっかり終わったころ、いつもゼミに遅刻ばかりしている子が、手にどっさりの手作りのサンドイッチかかえてやってきた。
みんなまだお腹の方が少し物足りなく思っていた時だったので、あっという間になくなった。

ひと息ついたあと、いつの間にか、女子学生たちだけが水際に集まっていた。何を話しているのかわからないが、じゃまをしてはいけないと思って、
湖面といっしょに望遠で撮った。家に帰って画像を再生してみると、彼女たちの楽しそうな青春の語らいが、すぐそこに聞こえてきそうな写真になっていた。

翌週のゼミで、写真を見せていたら、「先生、これ盗撮だよ」と、男子学生から声がかかった。たしかに、見ようによっては、
そう見えなくもない。その後、写っていた女子学生の一人が、「さっきの写真もらえますか」と言ってきた。

卒業して何年か経ったあと、この子はどんな思いで、この写真を見るのだろうか。人生が生きるに値するのは、
こうしたいくつかの、平凡でささやかではあるけれど、かけがえのない瞬間に彩られているからだ。