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旅歩き

2013 / 05 / 03

滋賀県立近代美術館

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滋賀県立近代美術館

滋賀県立近代美術館

滋賀県立近代美術館

美術館を訪れる楽しみは、展示してある作品を見ることだけではない。たとえば、美術館に付属のお気に入りのカフェやレストランで、ひと休みするのがお目当てだったりすることもある。また、美術館のまわりが、なんとなく、「ああ、美術鑑賞に来たんだ」と思わせるような美しいところは、それだけできもちいい。そんな美術館には、何度となく足を運びたくなる。東京でいえば、緑に囲まれた世田谷美術館や目黒の東京都庭園美術館などが、その代表かもしれない。そして、瀬田にある滋賀県立美術館も、そんな雰囲気を持った美術館だ。

美術館の建物は、木々でうっそうした県の文化ゾーンの真ん中にある。なんだか、森の中に美術館が舞い降りた感じ、とでも言った方がよいくらいだ。そして、建物の裏手には、「夕照の庭」と名付けられた回遊式の庭園があったりして、とてもぜいたくな環境。

回遊式庭園 夕照の庭回遊式庭園 夕照の庭

美術館の展示室は、大きく、企画展示と常設展示の部屋に分かれる。そして、常設展示の方は、日本の近代美術のコレクションと、日本と海外の現代アートのコレクションの二つからなる。

日本の近代美術の方は、滋賀県出身の作家や、滋賀にゆかりの作品を集めたものが展示されている。中でも注目したいのは、大津市出身の日本画家、小倉遊亀(おぐらゆき 1895?2000年)の作品。遊亀は、日本画家の安田靫彦(やすだゆきひこ)に師事し、1932年、女性ではじめての日本美術院同人となった画家。また、日本美術院理事長をつとめるなど、105歳で亡くなるまで、女流日本画家の第一人者として活躍を続けた画家だ。美術館には、彼女の作品60点がある。

遊亀の絵の特徴は、日本画独特の、もの静かな品格のある美しさをそなえつつ、それに加えて、洋画風の構図やタッチ、色彩表現など、独特のモダンな要素を備えているところ。とくに、若いころ、師である安田靫彦から、「一枚の葉っぱが手に入ったら、宇宙全体が手に入る」と教えられ、描く対象を深く見つめることで、ものの本質をとらえる画風は、終生変わらなかった。

題材も、気取ったものは少なく、身近な人物、花や果物、野菜など、親しみやすいものが多い。とくに、日本画は少し苦手という人には、とても馴染みやすく、かつ優れた作品に出会えるまたとない機会となるはず。

『少女』 1963年『少女』 1963年

もうひとつの常設展示は、日本と海外の現代アートのコレクション。現代アートは、なんだか苦手という人も少なくないと思う。多くのコレクションは、日本とアメリカの戦後を代表する作品だけれど、見慣れていない人には、たとえば、一面がほぼ真っ黒に塗りつぶされていたキャンバスだったり、四角い箱が展示室の壁にくっついていたりするだけで、何のことかわからない、という作品も多いかもしれない。

それでいい、と思う。現代アートに限らないが、アートを見るとき、いちばんいけないことは、無理にわかろうとすること。むしろ、「あ、これ、おもしろいな」と思った作品だけをじっくり鑑賞すればいいのだ。

それともうひとつのコツは、いっしょに行った人とおしゃべりをして見ないこと。おしゃべりする相手は、作品そのもの。できれば、友達と同時に同じ作品の前に立つことを避ける工夫をしながら見てまわろう。そうすれば、作品の方から、ちゃんとあなたに話しかけてくれるはず。

常設展示は、数ヶ月ごとにテーマを変えて展示される。何度か足を運べば、それだけで、戦後を代表する現代アーチストたちの作品にふれることができることになる。こうした機会は、ニューヨークやパリに行けば別だが、日本国内では、あるようでほとんどない。こんな素晴らしい美術館が滋賀県にあるなんて知らなかった、という人もきっと多いのでは。

左|『花と果物』 1961年 / 右|マーク・ロスコ『ナンバー28』 1964年 左|『花と果物』 1961年 / 右|マーク・ロスコ『ナンバー28』 1964年

<参考>

「追悼特別展 小倉遊亀」滋賀県立近代美術館図録 2001年