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エッサイ

2014 / 11 / 11

川

今住んでいるところから、駅に行くまでの道づたいに小さな川が流れている。いつもは深さが、20?30センチくらいの川だけれど、この夏のような大雨になると、
山からの水が流れ込んで、驚くような濁流になる。逆に日照りが続くと、川床に藻が茂って、そこに枝がひっかかったり、上流から流れてきたゴミがたまったりで、汚れてしまうこともある。
ところが、また何かの拍子で水かさが増すと、翌日には、すっかりもとの澄んだ流れを取り戻す。

いったんは土色に濁った流れに変わったり、また、ゴミがたまったりでも、いつの間にか、澄んだ清流を取り戻すその様子を見ていると、川の流れってすばらしいなあ、と感心する。
それは自然の力なのだろうが、僕たち人間も、こんな具合にうまく行けばなあ、とうらやましく思うのだ。

来年の春に開講する新しいゼミの学生募集が始まった。書類選考だけでなく、できるだけ本人と会ってから決めるようにしている。
その面接をしていると、こちらが気恥ずかしくなるくらい、学生たちのゼミに対する期待は大きい。また、選抜のための面接なのだから当たり前のことかもしれないが、
どの学生たちも、もしゼミに入れてもらったら全力でがんばります、と大変な意気込みだ。

学生たちも真剣な目つきだし、言っていることに嘘はないと思う。ただ、そうした最初の気持ちと、いったんゼミに入ってからとの落差が大きいことも、残念ながら事実だ。
ちょうど最初は澄んでいた川の流れも次第によどんできて、ゴミや土砂がたまったりするのと似ている。自然の川なら、ひと雨ふれば、またもとの澄んだ輝きを取り戻すのだけれど、
人間の気持ちは、そうかんたんに行かない。むろん、こうしたことは、学生たちだけでなく、誰にでも言えることだろう。

先日のファイナルステージで、巨人に4連勝して日本シリーズ進出を決めた阪神だが、3連勝して王手をかけたときの、和田監督のインタビューが印象に残っている。
ふつうなら、これで一気に決めたいと言うところだが、「明日も、シリーズ初戦の気持ちで戦います」と答えていた。ほぼ勝利を手にしたとき、選手たちの気持ちがどのように変わるか、よくわかっている人だと感じた。