自分の仕事が少し行き詰ったときなど、ときどき読み返す文章がある。このサイトのインタビューコーナーにも登場していただいた、デザイナーの副田高行(そえだたかゆき)さんが書かれたものだ。
「昔、JR九州のポスターをつくっていたことがあった。九州の駅にしか張られてないポスターだったのですが、ある日、ぼくの所に佐賀出身のデザイン学校の女の子が訪ねてきた。
自分が美大に行こうと思ったきっかけは、そのJR九州のポスターを駅で見たからだと言うんです。当時は高校生ですよね。ぼくがつくったポスターに足を止めて、
少しオーバーな言い方かもしれないけど、彼女は人生を決めた。そういうことを聞いたりすることがぼくらを支えているところがある」。
先日、東京で、マザーレイクプロダクツ「KIKOF」の新作発表会を開いたときのことだった。会場に、広告代理店で働いている女の子がいて、紹介された。
たまたま、僕が前に働いていたところと同じ会社にいて、マザーレイクのふるさと滋賀県の出身だった。立ち話でしばらく聞いているうちに、
入社して五、六年目なのだが、どうやら自分の思い描いていた仕事がなかなか出来ないらしい。その子が、目を輝かせて、こう言ったのだった。
「私は、滋賀県のために何か役立つ仕事をしたいと、ずっと思っていたのですが、こんなすばらしいことができるんですね。しかも、昔、私と同じ職場にいらした方がされているのを見て、とっても力がわいてきました」。
その言葉を聞いて、素直にうれしかった。もちろん、そんなつもりで開いたイベントではなかった。自分たちの作った商品を紹介し、みんなに見てもらいたいために開いたものだった。
僕たちが仕事をするという意味は、ビジネスを超えたところにある。しかも、その意味は、自分の内部にあるのではなく、むしろ外部にあるのではないだろうか。
仕事をすることで、自分自身が充実したり、成長することも大切だ。ただ、それだけでなく、自分がしたことで、ある人が、明日からまたがんばって行く勇気を与えることもできるのだ。仕事がする本当の仕事とは、きっとこんなところにあるのだと思う。