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エッサイ

2013 / 05 / 03

二つの才能

二つの才能OCC学生広告賞2012募集チラシより(写真と文章は関係ありません)

長い間、若い人を指導していると、どうしても才能というものが欠かせないことがわかってくる。しかし、その才能に、二つあることに気づいている人は少ない。ひとつは、その道に必要な才能だ。音楽や文学の世界、美術やデザインの世界がそうであるように、優れた才能を欠いては、いかんともしがたいところがある。同様に、自然科学の世界なら、論理的な思考能力などは、まず欠かせないだろう。

ノーベル賞を取るような並外れた才能は別として、あるビジネス領域で活躍するくらいの才能ならば、私の経験値でいっても、二十人に一人くらいの確率で持っている。たとえば、美術学校のデザイン科のクラスに、二、三十人の学生がいれば、将来、グラフィク界で活躍するような可能性を持った人は、かならず一人くらいいる計算だ。

そして、もうひとつの才能とは、その才能を、自分自身で伸ばしていく才能だ。当然ながら、前者の才能にいくら恵まれていても、この才能を持っていなかったら、何にもならない。そして、多くの人は、自分の才能探しにいっしょうけんめいだが、その才能をさらに伸ばす方の才能については、なぜか無頓着だ。

一人の学生が、ある公共団体が募集しているポスターコンクールに出品するからと、案を持ってきた。二案あったうち、こちらがいいかな、と意見を言った。この年齢にしては珍しく、両方とも、募集者側の心理が正確に読み取れている仕上がりになっていた。世間でいう、自称クリエイターたちにもっとも欠けている才能を、最初から持っている子だ。

しばらくして、もう一度考えなおしてみたのだけれど、こうした方がよくないか、とメールで画像を送ってきた。コピーの位置と大きさが微妙に修正されていた。前のものより、格段によくなっていた。

実際のビジネスでも、上司やお得意先からOKが出たものを、さらに、その上を詰めてみるという作業はなかなかできないことだ。仕事の仕上げの方が先にちらついているからである。しかし、完成の筆をどこで置くかは、自分自身の中にあるものだ。そして、そうした厳しい関所を、自分の心の中に持てるかどうかが、二番目の才能の持ち主になれるかどうかのカギだと思う。