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インタビュー

2014 / 03 / 19

阿字地 睦


(株)アサツー ディ・ケイ
総合ソリューションセンター
クリエイティブ本部

クリエイティブディレクター /
アートディレクター

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人の行動をデザインするのが、私の仕事だと思っています。

1964年生まれ。金沢美術工芸大学卒。MAC、レオバーネットを経てADK。朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、CannesDesignLion, OneShowDesign、Spikes Design , Pentaward、GOOD DESIGN賞を受賞。

―今のお仕事を始められたきっかけは何だったのでしょうか。

阿字地―最初は画家などの純粋美術をやりたかったのですが、そのことを両親に話しましたら猛反対にあい、
そこでデザイン科を受験することで、ようやく美術大学に進むことを許してもらいました。小さいころから絵を描くことがだいすきで、
大学ではグラフックデザインを専攻し、就職のときは、広告会社や制作会社を受けました。
当時は、今でもライトパブリシティで活躍していらっしゃる、細谷巌(ほそや がん)さんに憧れていました。
細谷さんのポカリスエットの洗練された広告なんか、本当に魅かれました。

―この世界では、珍しいことだと思うのですが、阿字地さんは、パッケージデザインとプロモーションの両方を手がけられますね。

阿字地―ええ、僕たちの仕事の多くはブランドを作ることですが、そのためには、
それにふさわしい世界観を創りあげることが必要だと思っています。パッケージデザインでまず、
キチンとした世界観、トーン&マナーをつくり、その世界観を広げたものが自然とコミュニケーション含めブランドの世界観を形成している状態を理想としています。

―パッケージデザインと広告ポスターを作る作業とでどこか違いはありますか。

阿字地―脳の使う部分が違う感じですね。パッケージデザインの場合は、ポスターなどの広告と違って、
まわりは競合商品に囲まれています。だから、その中でパッと目につかなければいけないし、
新製品の場合、登場感のようなものも必要です。同時に、時間の経過に耐えられるかを検証します。
また、お店の蛍光灯の光で商品がどう見えるかとか、棚の高さはどのくらいだとか、細かいことにも気をつけなければいけません。

パッケージは競争の激しい店頭で選ばれ、レジでお金を払ってもらい、冷蔵庫や食卓で、繰り返し手にとられながら、
ゴミになるまで生活者に密接に関わる。そういう意味で私はパッケージをテレビやネットに負けない強いメディアと捉えてデザインしています。

―ホーユーのパッケージデザインですが、カンヌ国際広告祭で銀賞を受賞され、また、世界のパッケージデザインの最高賞ともいえるペントアワードのダイヤモンド賞も獲得されましたね。

阿字地―この仕事は、苦労も多かっただけにうれしかったですね。ホーユーさんは、ご存知とおり、
ヘアカラーではトップシェアですが、ヘアオイルやWAXの世界では、これからという時期。
そのため、新商品を携えてヘアサロンに説明に行っても、お店の人は話を聞いてくれない可能性が大でした。
そこで、サロンのヘアデザイナーの関心をどれだけ惹く商品に仕上げるのか、というところがポイントでした。
ヘアデザイナーさんたちは感性の鋭い人が多いですから、その人たちが「オッ」と思うボトルデザインが必要だったのです。

この商品のコンセプトは「カウントダウン」ですが、ボトルデザインの形状は、
お客さんのヘアスタイルが完成する直前の自由自在な髪の状態をイメージし表現したものです。
この金型づくりはたいへんコストのかかるもので、お得意さんが決断してくださったことに感謝しています。
また、ボトルの下の部分の素材はガラスで作られています。それだけコストもかかるのですが、商品を持ったときの重量感を出したかったためです。

hoyu3210 フォルムはコンピュータを使わず、手で削りだしたもの。hoyu3210 フォルムはコンピュータを使わず、手で削りだしたもの。
いつまでも触っていたくなる手になじむカタチを検証。プレゼンテーションケースは、敏感なヘアスタイリストに「なに、それ?」と思ってもらう目的で開発された。いつまでも触っていたくなる手になじむカタチを検証。プレゼンテーションケースは、敏感なヘアスタイリストに「なに、それ?」と思ってもらう目的で開発された。

―パッケージデザインと広告デザインとで、何か仕事の達成感の違いのようなものはありますか。

阿字地―広告はわりと露出期間が短く限られるわけですが、パッケージの場合、ロングセラーになれば、
それこそ何十年と人の目に触れるわけです。例えば、僕がデザインしたSOYJOYのパッケージを、僕の息子が、子供のときから大人になっても、
ずーっと見続ける可能性もあるわけです。その意味からいえば、広告も、パッと見て、パッと終わってしまうのではなく、
できるだけ見る人の滞留時間を長くする工夫が必要だと考えています。

SOYJOYパッケージ 大豆の栄養を手軽に摂取できるコンセプト。アメリカ、ヨーロッパ、アジア等世界で販売されている。SOYJOYパッケージ 大豆の栄養を手軽に摂取できるコンセプト。アメリカ、ヨーロッパ、アジア等世界で販売されている。

―滞留時間の多い広告という意味で言えば、「スゴイダイズ」の節分広告や、朝日広告賞を受賞された「振り込め詐欺防止」の作品がまさにそうですね。

阿字地―最近では、節分もやらない家が多いそうです。でも、この鬼のお面や、トラ皮模様のパンツの絵が新聞に載っていたら、
「よし、今日は家で豆まきダ!」と、お父さんも早く家に帰ってくる可能性もあるのでは、と思いました。トラ模様のパンツなんか、
子供はもちろん、ペットにはかせた写真までも、たくさんネット上にアップされました。
それだけ、長い間、消費者が、「スゴイダイズ」の広告につき合ってくれたということになります。

「鬼のお面」新聞広告(左 読売新聞2006年2月3日) 新聞を折り紙のように折ると、鬼のお面が出来上がる。折る手間を作ることで、広告との接触時間を稼ぐことが目的。 「鬼のパンツ」新聞広告(右) 新聞を切って組み立てると鬼のパンツが出来上がる。使ってもらう広告。「鬼のお面」新聞広告(左 読売新聞2006年2月3日) 新聞を折り紙のように折ると、鬼のお面が出来上がる。折る手間を作ることで、広告との接触時間を稼ぐことが目的。 「鬼のパンツ」新聞広告(右) 新聞を切って組み立てると鬼のパンツが出来上がる。使ってもらう広告。

―「振り込め詐欺抑止」の新聞折り込み広告も、びっくりするような斬新な作品ですね。

阿字地―新聞広告には、僕なりの思い入れもあるのです。僕は小さい頃、新聞配達少年でした。
というか、家族全員で新聞の折り込み広告作業をしていたのです。朝四時ころから起きて、おばあちゃんも両親も全員で車座になって、
新聞にチラシ広告を折り込む作業をしていたのです。それから配達にまわるのですが、小学校四年生くらいまで新聞配達をしていました。

この作品は、「振り込め詐欺」に見られるように、人間は思わずだまされてしまうものだ、ということを表現したかった広告です。
折り込み広告なのですが、一瞬、配達された新聞の端から一万円札がのぞいているように見えますから、みんな驚いただろうと思いますね。
ただ、よく見ると、福沢さんが電話をかけていますし、赤く「みほん」の文字も入っています。一部分だけお札をのぞかせたのも、
表現できるお札の面積は、本物のサイズの二分の一以下に抑えなければいけないという決まりがあったからです。

「振り込め詐欺抑止キャンペーン」新聞折り込みチラシ広告  新聞から一万円札がはみ出ている。「だまされないために、あえて、だます。」広告。もしくは「自分だけはだまされない。」そんなインサイトをついて、高齢者に、だまされる体験をしてもらい、詐欺を自分ゴト化してもらうねらい。「振り込め詐欺抑止キャンペーン」新聞折り込みチラシ広告  新聞から一万円札がはみ出ている。「だまされないために、あえて、だます。」広告。もしくは「自分だけはだまされない。」そんなインサイトをついて、高齢者に、だまされる体験をしてもらい、詐欺を自分ゴト化してもらうねらい。

―「スゴイダイズ」の節分広告や、「振り込め詐欺抑止」の広告もそうですが、阿字地さんの作品には、ユーモアにあふれているように思いますがいかがでしょうか。

阿字地―たしかに。広告にかぎりませんが、口元がゆるむというのは、やはりうれしいことだと思います。ただ単にこちらの言いたいことを伝えるだけでなく、「トクした感」がある広告とか、鬼の面の新聞広告のように、別の何かに使えるとか。これからも、「今日、こんな広告が出ていたよ」と、誰かに伝えたくなるような、広がりのある作品を作ってゆきたいですね。

インタビュアーの+α

ペントアワードの最高賞を受賞したヘアカラー商品のボトルは、ほぼ白色に近い不透明なデザインである。
サロンでの作業性を考えると、WAXでいえば、SOFTやHARDなど中身が、ひと目でわかる工夫が必要になる。
そのためには、ボトルのカラーリングを、内容を体現した色合いのものにするか、透明の部分をこしらえて、
中が見えるような工夫をするかである。けれど氏は、そうした色付きのボトルにすることは、せっかくのユニークな形状のデザインを、
ごくありふれたものにしてしまうことになると得意先を説得したという。色の付いていないヘアカラーボトル、
おそらくそこには、デザイナーの感覚とクライアントの要求する機能性のぎりぎりのせめぎあいがあったはずだ。
あらためてボトルを見直すと、それは、互いに、ありきたりの妥協を許さなかった、デザイナーとクライアント両者の結晶体のようにも見えてくる。