ボーダレス・アートミュージアムNO-MA
ボーダレス・アートミュージアムNO?MA
ボーダレス・アートって何だろう。
アートって最初からボーダレスじゃないの?と首をかしげる人も多いに違いない。
たしかに、アートに限らず、現代はボーダレスの世の中だ。この場合のボーダレスとは、国境を超えてという意味のボーダレスだけれど、それ以外にもまだ、私たちの身のまわりには、本来あってはいけない、いろいろなボーダ(境)がそこかしこにある。たとえば、国や民族の違い、宗教、男性と女性、障害者と健常者、などなど。
そして、そうしたボーダと無縁なように見える美術の世界にも、実は、ボーダがあるのだ。たとえば、精神障害のある人、専門的な美術教育を受けてない人、そして、いかにもアマチュア風の画家、などである。
たとえば、絵画史の中でも、素朴派とよばれた画家たちがいる。大学や美術学校で正式な美術教育を受けていない画家たちのことで、彼らが活躍したのは、十九世紀末から二十世紀初頭にかけてのことだ。それらの素朴派の画家として、もっともよく知られた画家に、フランスのアンリ・ルソーがいる。今でこそ、パリのオランジェリー美術館やオルセー美術館に作品がかざられ、日本人にもたいへん親しまれている画家の一人だが、当時の人々が彼を見る目はけっしてあたたかいものではなかった。ときの批評家たちは、ルソーの絵を見て、「ルソーは目をとじ、足で描く」とか、「彼の絵を見ると、爆笑のうずが会場をゆする」などと、あざけったといわれる。
つまり、私たち自身は、ボーダレスにアートを見ているつもりでも、自分たちでも気づかないうちに、アートの世界独特のわく組みの中でしか見ているのだ。そうした間違いにちゃんと気づかせてくれるのが、近江八幡にある、ボーダレス・アートミュージアムNO?MAだ。
この美術館では、ボーダレス・アートという表現がされているが、これと同じような意味で使われているものに、「アール・ブリュット」という言葉がある。日本語になおすと、「生(き)の芸術」とよばれ、「加工されていない、生のままの芸術」を意味する。アール・ブリュットは、フランスの美術家ジャン・デュビュッフェが提唱したもので、アカデミックな美術教育を受けていない人たちが、伝統や流行に左右されずに、作家自身の内側からわき上がる衝動のまま表現した芸術のことをさす。
アール・ブリュットという言葉が、一般に知られるようになったのは、2010年3月、パリのアル・サン・ピエール美術館で、日本人による作品を集めた「アール・ブリュット・ジャポネ」展が開催されてからだ。10ヶ月間にわたって開かれた展覧会は、パリの人々から高い評価を受けたのである。
NO?MAミュージアムは、近江八幡市のほぼ中心、ヴォーリーズの残した建築群のならぶ町並みのすぐ近くにある。ヴォーリーズ建築散策をかねながら、ミュージアムを訪ねてみるのも、新たな芸術観にひたれる良い機会となることだろう。