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エッサイ

2014 / 10 / 24

命まで・・。

命まで・・。

モノづくりというのは、思ったよりも大変だということを、最近、ひしひしと感じるようになった。人手も要るし、時間もかかる、そして、当然ながらお金も要る。
私たちの身の回りは、見渡すかぎりモノなのだから、それこそ、社会全体が苦労のかたまりで出来上がっていると言ってもよい。

私は、広告の世界の出身だから、モノ、つまり商品が出来上がってから、仕事が始まっていた。だから、商品が最初からそこにあるのは、ごく当たり前のことだった。
今から思えば、何の苦労も知らずに育った、金持ちのボンボンみたいなものだ。「こんな商品作って、売れると思っているのかな」なんて、平気で言っていた。

因果応報、この歳になって、それがとんだ思い違いだったことがよくわかってきた。色もカタチも、紙の上に色鉛筆で線を引くようにはいかないのだ。
まして、クリックひとつで、瞬間的に画像の左右がひっくり返るような芸当は、現実の三次元の世界ではありえない。
誰かが、一から型(かた)を作り直して、それを削って、色をのせて、そこでようやく僕たちが手でさわれるモノが出来上がるのだ。

先日も、そんなこんな苦労を、モノづくりの人と話していたら、逆にこちらが教えられる場面に遭遇した。予算はかかりそうだし、さりとて、先行きも不透明な中で、
これ以上仕事を進めてだいじょうぶかな、と私が思案していたら、「いやー、大変だけど、命までとられるわけではないですからね」と、反対に作り手の方から、勇気づけられる言葉が返ってきたのだ。

たしかに、昔のチャンバラの世界ではないのだから、何が起ころうとも、命までとられることはない。そんなことは、本来、聞かないでもわかっているはずなのに、
自分自身で用心の仕切り線を勝手に引いてしまっていることに気づかされた。足を滑らせれば真っ逆さまに落ちてしまうという断崖絶壁は、まだまだはるか先のはずなのに、そのずいぶん手前で、尻込みしていたのだ。

ただ、これくらいの勇気と大胆さを持つには、きっと、もう少しで谷底へ落ちてしまうような、尋常ならざる経験が必要に違いない。モノを作って生きていくとは、それくらい厳しいことなのだろう、と思った。