一方的に学生側の肩を持つ話になるかもしれないが、ちょっと心配なことがあるので書くことにした。企業の新卒採用のことについてだ。どの企業も意識はしているのだろうが、それに対する答えを、きちんと出せていないところが気になっている。
不況のせいもあって、学生たちが回る企業数は、軽く数十社を超える。その中で、一、二社内定をもらえれば良い方で、全敗の子も、うようよいる。エントリーシートからの参加者を母数にすれば、採用に向けた競争率が1000倍近くになる企業も少なくない。つまり、企業によっては、一人の優秀(?)な社員を採用するために、999人のアンチファンを、毎年、つくり続けていることになる。しかも、膨大な人員と費用をかけてだ。
大昔のことになるが、自分の体験を振り返っても、例えば、M生命の人事担当者が、「君たちは、何百人もの外交員のおばさんたちの上に立つエリートになるんだから・・」と、えらく居丈高なしゃべりだったのを思い出す。M生命には絶対に入るまいと、決意したかどうか忘れたが、N生命に入っている。これも縁のなかった金融機関だが、バブル後の金融不況時に、そこが倒産したときは、下品にも、心の中で快哉を叫んだ記憶がある。
こういうのを、八つ当たり、お門違いとでもいうのかもしれないが、結果として、多くのBtoC企業が、毎年、不採用にした学生の数だけ、今現在の、あるいは将来の潜在顧客を失っていることは確かだ。
昨年のことだが、卒論指導のゼミで、ある女子学生が、一枚のハガキを持ってきた。広告業界志望の子である。先生、これ知ってる?と差し出したハガキは、その子が受けて、すでに落とされた企業から、一次の面接前に送られてきたハガキだった。裏面に、◯◯様、笑顔! 笑顔、笑顔と、ピンクのマジックペンで手書き文字が書かれている。
いやー、感心しちゃった、とその学生は、素直に喜んでいた。この手法が当たりかどうかわからないが、毎年起こる大きなロスを何とか目減りさせようと努力していることだけは確かだ。
理屈をいえば、入社試験に合格した人だけで成り立っているのが企業だ。だから、落とされた人の気持ちなんてわからない、とかんたんに済まされる話でもないと思うのだが。