ユーチューブで遊んでいると、ときどき思いもよらない映像に出くわすことがある。
先日も、古いNHK紅白歌合戦の映像があって、クリックしたら、若い頃の、おそらく二十歳前後だと思われる倍賞千恵子さんが出場している映像があった。
そう、寅さんのさくらちゃんの若かりし頃だ。歌っている曲は「下町の太陽」。
自分の記憶にも、そういえば聞いたことがある程度の、記憶にあやふやなメロディーだったけれど、何しろ、熱唱する倍賞さんのキラキラと輝く姿に目をうばわれた。
歌は、当時、倍賞さんが主演した、同名の映画の主題歌が大ヒットしたもので、監督は山田洋次さんだ。
スターというのは、本人の才能や努力もあるだろうが、むしろ、その時代、時代があぶり出す不思議な力に支えられているように思う。
当時の倍賞ファンたちが、彼女の姿や声に何を見ていたか、それは人それぞれだったかもしれないが、こうして時間がたって見ると、むしろそれは日本そのものだったのでは、という気もしてくる。
そのころの日本は、国全体が下町だった。下町は、山の手にくらべて貧しいというだけではない。
けなげで、純真で、謙虚で、つつましく、また何よりも、ささやかながらも明日への希望に満ちたところだ。
太陽に照らされる下町をうたう倍賞さんの姿は、当時の日本をすべて集約した存在だったのではないだろうか。
僕は、寅さん映画の熱心なファンではないが、人並みに見ている方だと思う。その中の、おばちゃんの決まり文句―
「そう、さくらちゃんの言う通りよ」というのがある。このひと言で、さしもの無頼漢の寅さんもシュンとなる。
シュンとなったついでに、てれ隠しなのか、そのままプイと外に出て行くのが、これもお決まりのパターンだ。
もはや日本は下町ではない。妹のさくらちゃんから「お兄ちゃん、しっかりしないとダメじゃないの」と言われる存在ではない。
ただ、それと同時に、下町に明るく輝いていた希望の太陽まで失ってしまったような気もする。
ユーチューブ 倍賞千恵子「下町の太陽」
http://www.youtube.com/watch?v=CLgtU2J_Bw0