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インタビュー

2013 / 05 / 03

川端 健夫


木の家具と生活道具 COUSHA

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○ mamma mia

http://mammamia-project.jp/

木のぬくもりを感じさせるさくら材で作られたボール

木は、山から切ってくるまでは、生きていたわけですから、私たちは無意識のうちに、木の「命」をもらっているんですね。だから、暖かく感じるんです。

滋賀県甲賀市で木製の家具や食器、日用雑貨などを作る川端健夫(かわばたたけお)さん。もともとは大学で林業を学び、一時は農業を目指したものの、やはり自分はモノづくりが合っていると、木工制作を仕事に。今では、県内外に熱心な川端ファンを持つ。昔、農業學校の校舎だったところを改装して、パティシエールの奥さまといっしょに、パティスリーと木工ギャラリーを兼ねたショップ「mamma mia(マンマミア)を営む。

―ここのギャラリーの名前である「mamma mia(マンマミア)」とは、どんな意味なのでしょうか。

川端―「mamma mia」とは、イタリア語で、「何てこった!」という意味です。英語でいえば「OH my god !」と同じですね。有名なミュージカルや映画でも同じ題名のものがあります。それから家内の名前が、美愛(みあ)なので、それもひっかけていますが。

―「何ってこった」というのは、おもしろいですね。その「何てこった」という仕事をはじめられたきっかけは何だったのでしょう。

川端―農大で林業を学んだ後、三重県の農業法人で農業を始めました。1990年の初めのころで、ちょうどバブルがはじけた直後でした。その後、東京の郊外で農業研修を始める予定でしたが、住まいから農地に通う交通費がバカ高いものなって、ひとまず生活資金を確保することを考え、職業訓練校の木工科に入学しました。大学で林業を学んだこともあったからです。そして、訓練校に通いながら、芸術性の高い家具制作をしている職人さんのところに弟子入りしました。

ダイニングテーブルセットは、そのままレストラン用に かわいらしいチャイルドチェアダイニングテーブルセットは、そのままレストラン用に かわいらしいチャイルドチェア

―それまでは、全然、木工制作とは馴染みがなかったわけですよね。

川端―いやー、大変でしたね。結局、三年間そこで修行したのですが、最初の二年間は、親方から「おまえの作品は、ラインが破綻している」と言われ続けました。林業をやっていましたから、山に建っている木には慣れていましたが、木を切り刻むとなると、まったくのシロウトでしたから。ラインが破綻しているというのは、例えば、家具デザインの曲線同士のつながりにしても、この世界なりのちゃんとした決まりごとがあるんです。そんなこと知りませんでした。

―それでも、木工の世界は捨てなかった。

川端―ええ、なんだか農業よりも、自分の性格に合っているように思えたのです。ご存知のように、農業は自分のペースでは絶対に仕事ができません。最終的には、自然のペースに合わせなければいけません。例えば、収穫時期を誤れば、全部、作物がダメになってしまいます。天候の急変などもありますから、臨機応変な対処ができる人でないと農業はうまくいかないのです。農業はのんびりしていいなんて、まったくの誤解です。それに比べれば、木工の場合は、ここらで少し作業を置いておこうというのが、まだ可能ですからね。

―川端さんにとって、木の魅力とは何でしょうか?

川端―やはり、暖かさでしょうね。金属や化学樹脂のような他の素材にくらべて、生きたぬくもりがあるんです。木は、山から切ってくるまでは、生きていたわけですから、私たちは無意識のうちに、その木の「命」をもらっているんですね。だから、暖かく感じるんだと思います。

―こうした自然に囲まれた環境の中で、奥様がお菓子づくり、川端さんが木工芸と、ある意味で、現代の人々にとって憧れの生活のようにも思えるのですが。

川端―最初は二人で、小屋みたいなところから始めてもいいかな、と思っていたのですが、こんな広いところからスタートすることになったんです。ここは昔、農学校だったのですが、建坪だけで約400平米あります。ギャラリー、レスラン・カフェ、仕事場、そして奥が私たちの住まいになっていて、仕事も家庭生活も、ここですべて完結するんですね。だから、ほとんどこの家のまわりから離れたことがありません。

―拝見しますと、手作りですから、価格も安くはないわけですが…

川端―たしかにそれだけを見ると高く思えますが、こういうモノって、長く、そして大切に使われるでしょう。結局、長い目でみれば高くつくわけではないし、むしろトクだと思いますね。これからは、モノを買うことで満足する生活ではなくて、長く使われるモノによって、生活が作られていく時代だと思います。

―こういう仕事をされて、一番うれしいことは何でしょう

川端―ときどき、「こんな良い色になりました」と、ここで買ったお皿やボールを持って来て下さるお客さまがいらっしゃいます。また、子供がかじって、少し欠けたベビースプーンを、もう一度、削り直しに来られる方もいらっしゃったりして。そういう時が、やっぱり一番うれしいですね。

インタビュアーの+α

草津から支線に乗り換えて降り立ったもよりの駅には、自動改札機もなかった。そこからまたクルマで数分走った小高い丘の上に、mamma miaはあった。よく作品と人物は一致するというが、これほどぴったりの人も少ないだろう。チェリー、ミズナラ、クリなどの素材から作られた家具や食器、それに、蜜蝋とえごま油を混ぜた塗料を丹念にすり込む。そうして出来上がった、素朴で深みある作品は、まさに川端さんの人そのものだ。つきなみだが、インタビューの最後に、これからの目標のようなものをうかがった。しばらく黙った後、ゆっくりと川端さんの口からもれた言葉は、「究極のシンプル」だった。いくつかの作品に、ノミ跡のついたものがあるが、そのノミ跡すら果たして必要なのかと考えこむこともあるらしい。おそらく、川端さんが削り落としているものは、たんなる木片とは違うのかもしれない。