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エッサイ

2013 / 05 / 03

南アフリカの父へ

南アフリカの父へ

誰でもそうだと思うが、ときどき、心ひそかに応援したい人が出てくる。私にとって、先日、TCC賞グランプリを受賞した東畑幸多君はその一人だ。東畑君は、すでに2009年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーも受賞していて、その意味ではもう功成り名を遂げている人で、応援団なんていらないわけだから、こちらの片思いと言った方がよいのかもしれない。

応援したくなる理由は、彼の、広告に対する「姿勢」が良いからだ。おもしろい広告、味わい深い広告、感動的な広告、センスの良い広告、そして商品がたくさん売れる広告、いろいろあるが、「姿勢」のよい広告は、久しぶりかなあ。

彼の作品で評判になったCMに、今回の受賞理由にもなった、JR九州の新幹線全線開通広告がある。沿線の人たちが、新幹線にエールを送る広告だ。これまでのように疾駆する新幹線を外から仰ぎ見るのではなくて、ほぼ全編を、新幹線に乗っている乗客からの視点で見せたくれたのだ。逆転の発想といってしまえばそれまでだが、新幹線開通→うれしい、という構図からいえば、むしろ素直すぎるくらいストレートな広告だ。

一昨年のサッカーのワールドカップ、日本?オランダ戦を控えて、全国紙各社が掲げた全面広告「南アフリカの父へ」は、広告史に残る作品だと思う。この日は、父の日の前日でもあった。話題性、出稿タイミング、父と娘、手紙形式、どれも新聞広告でなければできない要素をちゃんと踏んでいる。そして、新聞らしく堂々の活字だけの表現。

広告が好きなクリエイターは多い。けれど、広告に絶対の信頼を置いている人は、クリエイターを含め、この業界にたくさんはいない。ネット広告の比重がどんどん大きくなる中、広告に信頼・・?・・とてもとても、といった気持ちの業界人も多いことだろう。

だから、向かい風の広告界にあって、東畑君のような、背筋をしゃんと伸ばして立つ若いクリエイターに、むしょうにエールを送りたくなる。もうすぐ父の日。今年は、どんな広告が紙面を飾るのだろうか。