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エッサイ

2013 / 05 / 03

幸運の女神

幸運の女神

誰しもこんな経験があるのではないだろうか。例えばあなたが、お気に入りの食べ物屋さんで、舌つづみを打っている。
偶然その日は、席が入り口の方で、窓からは外の様子がよく見える。ふと目をやると、戸口に別のお客さんがやって来た。
たぶんその人は、店のことをよく知らないのだろう、ウィンドウのメニューを見ながら、入るべきか、
入らざるべきか迷ったあげくに、別のお店へと去って行った。こちらとしては、「どうして入らなかったのだろう、
こんなおいしい店なのに・・・」と、他人事ながら残念に思ってしまう。
もちろん、私たち自身が逆の立場に立っていることもあるに違いない。物事はうまくいかないものだ。

私は、かねがね、幸運の女神とは、こういうものかもしれない思っている。ちょうど、
安くておいしいレストランの入り口まで来ながら、それを食べ逃すように、傍(はた)から見れば、
これほどのチャンスはないというくらいの幸運の機会に恵まれながら、みすみす取り逃がしてしまう。

こんなことを思うのは、年をとったせいもあるが、学生たちを指導していると、そうした機会によく出くわすからだ。
その子が絶好のポジションにいることが、こちらからはよくわかる。アドバイスもするが、
最終的にその橋を渡りきれるかどうかは、本人がどこまで本気で取り組むかにかかってくる。
首尾よく橋の向こうにたどり着き、幸運を手に入れることができる子もいれば、そうでない子もいる。

この差はどこから来るのか、経験上、その大きな理由のひとつが、素直さだと思っている。
岡目八目というか、ほとんどの人は、自分のそばに、そんなすばらしい女神が立っているなんて夢にも思わない。
ただ、ちょうどレストランの味を知っている人からみれば当たり前のことなのだが、まわりにいる人、
経験者にはそれがちゃんとわかる。そこで、その人の一言を素直に聞けるかどうか、そして、ちゃんと実行できるかどうかがカギなのだ。

どこの国だったか、「幸運の女神に後ろ髪はない」ということわざもある。
逃がしたチャンスを後追いしても無駄という意味だが、長い人生、女神は何度となく、
あなたのそばを通り過ぎているはすだ。そんな時、かたくな心を少しゆるめるだけで、
あなたも、きっと女神の前髪に触れることができるはずだ。