「マーケティングとは何か」ということについては、いろいろな説明があるかもしれないが、それはある意味で、
「思い込み」を捨て去ることだと言ってもよいかもしれない。
もう一年以上前のことになるけれど、比良山のふもとで、木工に精を出されている
中川周士(なかがわ しゅうじ 中川木工芸 比良工房)さんを、おたずねしたときのことだ。
中川さんのお父さんは、桶づくりで人間国宝までなられた方である。中川さんもその技術を引き継ぎ、
仕事の中心は桶づくりだが、今の生活に馴染む製品もたくさん作られている。
その仕事のひとつが、ワインクーラーである(写真はシャンパンクーラー)。
それはデザイン的にも非常に魅力あふれるもので、ワイン党のはしくれのような私にも、いつかわが家にも、
と思わせるものだ。ただ、手仕事のこともあり、お値段は安くない。6?7万円くらいする。
マーケティング講座のようになってしまうが、この商品を前にして、「どんな顧客が考えられるか」と質問すれば、
「いや、6万円は高すぎますよ」とか、「やっぱりお金持ちの人でしょう」「ワイン好きなら買うかも」
「ワインを置いている高級レストランに」などといった答えが、いくつか返ってくるに違いない。
当然そうした顧客もあることにはあるのだけれど、中川さんによれば、予想だにしなかった、
意外な顧客がいたとのことなのだ。それは、結婚式のお祝いの贈りものとして、若い人たちの間で人気なのだと言う。
どうだろう、先にあげた、誰でも思いつくターゲットと違って、お金持ちの人たちではない。
また、お金を出す人たち自身がワイン好きかどうかもわからないし、お店の人でもない。ことごとくアテははずれているだが、
ギフト、多人数でお金を出し合えば、それほど高い価格でもない、また、ワインそのものを贈る場合は、
相手の好みも出てくるけれど、ワインクーラーならその心配もない、などなど、後づけなら、いくらでも売れる理由が思い浮かぶ。
高いから売れない、そんな趣味の人がいるのか、伝統工芸は若い人には理解できない、
これらはみんな、作る人たち、売る人たちの思い込みにすぎないのである。