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インタビュー

2013 / 05 / 28

大舩 真言


日本画家

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私の作品が、観る人にとって、自分を映す鏡となってほしいと思っています。

大舩真言(おおふね まこと)さんは、滋賀県の五個荘にアトリエをかまえる日本画家。
日本画といっても、私たちがふつう想像する、具象的な風景や花などがモチーフではなく、それはまるで、
油絵の現代画にあるような抽象世界。しかも、作品は厚みをもった立体で、絵画というよりも、
現代的なオブジェと言った方がふさわしいかもしれない。日本画、そして絵画という領域を飛び超えて、
造形世界の新しい可能性を感じさせてくれる次代のホープである。

アトリエの隣に建つ、大舩さんご自宅の座敷に、大きな作品が置かれていた。

―さっそくですが、この作品「WAVE#00」のテーマについて教えていただけますか。

大舩―WAVEの名前のとおり、テーマは「ゆらぎ」とでも言えばよいでしょうか。
描いてあるのは、空気とも風とも水ともつかない世界ですが、それらが微妙にゆらいでいる、
それを表現したものです。こうした「WAVE」シリーズだけで、すでに100近くの作品数になります。

「WAVE#00」」「WAVE#00」

―この作品もそうですが、大舩さんの作品は、ふつうの絵画にない厚みをもっていますね。

大舩―たしかに。そして、厚みも作品によって変えているのですが、もしこれがふつうの絵のように、
キャンバスや紙の厚さだけですと、見る人は、どうしても表面的な絵そのものにだけ関心がゆくのですが、
こうして厚みをもたせると、作品が、空間そのものを構成するモノとして、三次元の存在に変化します。
二次元的な絵画としての存在と、現実とつながっているモノとしての存在の両方を、作品に持たせたいという気持ちからです。

―大舩さんの作品は、野外彫刻のように、自然の中に置かれたときにいっそう映えるところが特徴のひとつだと思いますが、ご自身ではどのように思われますか。

大舩―そうですね。私の作品と自然と、ゆらいでいるもの同士の波長がちょうど合ったとき、
美しく見えるのかもしれません。その意味では、とくに野外に作品を置かなくてもよいのだと思います。
例えばこうした屋内でも、部屋に差し込む光は刻々変わりますから、同じ瞬間は二度とないわけです。
また人の内面も同じようにゆらいでいます。自然の要素と、作品、人、その全てが一つにつながり合った時、豊かな鑑賞体験が生まれるのだと思っています。

琵琶湖を背景にした作品「eternal #5」琵琶湖を背景にした作品「eternal #5」
Photo by MAKOTO OFUNE

―それだけ、作品と空間とのつながりを大切にされているということでしょうか。

大舩―ええ、例えば、日本画の世界でいいますと、掛け軸のようなものがありますね。
その掛け軸の絵がどんな絵なのかも大切ですが、それが床の間に掛けられたときと、そうでない場合は、
その部屋の空気全体が変わってくるでしょう。つまり、掛け軸の絵が独立して存在するのではなくて、
絵とその空間は、まさに一体なわけです。私の作品と空間の関係が、そうして互いに響き合うようにと、いつも考えています。

―大舩さんの作品は日本画ですが、西洋の油絵とはどのような違いがあるとお考えでしょうか。

大舩―もっとも大きな違いについて言いますと、油絵の場合は「面」ですが、
岩絵具を使って描かれる日本画は、「粒子」による表現世界だと思っています。水でも空気でも、
遠くに見える山のようなものでも、一見したところ面に見えますが、目を凝らせば、
それらはすべて粒子なわけです。そして、そうした微細な世界までいくと、それらは、空気なのか、
山なのかわからないところまでいくわけです。そのような、それぞれの粒子が渾然一体となった世界を表現するには、
私にとって、岩絵具を使って描く日本画の表現が一番合っているのです。

―大舩さんの作品は、一見、1960年代のアメリカのミニマリズムの画家たちの作品を感じさせるところもありますが、
ご自身ではそれを意識されたり、また違いについて、どのようにお考えでしょうか

大舩―ミニマリズムもそうですが、西洋の抽象画は、外から削っていってたどり着いた世界ですね。
それに対して、私の場合は、中から生まれてくる抽象とでも言えばよいのでしょうか。対象と自分が一体となって、
ふつうは目に見えてこない世界を、心で感じ、描き出したものだと思っています。

―最後に、これからの作品づくりで、何か目指されているようなことがおありでしょうか。

大舩―絵画でも彫刻の世界でもよいのですが、西洋の芸術は、作品を通して、
自己をどこまで表現するかというところに重きが置かれます。一方、私も含めて、日本の場合は、
作品が、作者を超えたところまで昇華していくことが理想とされます。私の作品もそうありたいと思っています。
私の作品が、私という存在を超えて、観る人にとって、自分を映す鏡のようになって欲しい、そう願っています。

「WAVE#50」「WAVE#50」
Photo by MAKOTO OFUNE

インタビュアーの+α

大舩さんの存在を知ったのは、昨年の秋に行われた「BIWAKOビエンナーレ」を通じてだった。
ただそのときは、作品そのものを見る機会はなく、しばらくして、作品より前に、ご本人に会うことの方が先になってしまった。
その折り、ご自身がお持ちだった作品集を見せてもらい、ますます作品そのものを見たくなって、アトリエまでお邪魔したのだった。

予想にたがわず、ご自宅とアトリエに置かれた作品は、これまで目にしたことのない、
日本画による新しい抽象の世界を感じさせるものだった。日本画と自然は、切っても切り離せない関係にある。
それは、人を対象に描くことの多かった西洋画の世界とは大きく異なる点と言ってよい。
その日本画を、床の間から持ち出して、まさに自然そのもの中に溶け込ませた作品世界こそが、
大舩さんの特徴だと思っている。日本画は、また新しい自然を手に入れたのである。