ちょっと視点を変えると、驚くようなことが起こる。今年の「新聞広告クリエーティブコンテスト」のグランプリは、
その典型だと思う。キャッチコピーは、「ボクのお父さんは、桃太郎というやつに殺されました」。字は子供の書き文字で、
その下に小さく、泣きじゃくる子供の鬼のイラストが入っている。
そういえば、そうだよなあ、桃太郎に退治された鬼に子供がいても、少しもおかしくないし、
その子鬼にしてみれば、桃太郎は、きっと大切なお父さんを殺した、にくき親のカタキに違いない。考えなかったなあ、ここまで。
この作品のタイトルは、「めでたし、めでたし?」だ。めでたし、めでたし、と拍手喝采に終わる英雄桃太郎の鬼退治のおとぎ話も、
もう一枚ページを付け足しただけで、こんな不幸話にかわってしまうのだ。
今年のコンテストのテーマは「しあわせ」だったらしい。でも、ここからはボクのかんぐりだけれど、
今回の受賞は、新聞社の別の意図も見えかくれするような気がしてきた。話を広げすぎかもしれないが、
今の私たちの視点が、どうも桃太郎側の視点にばかり片寄すぎる昨今の風潮についても、もしや疑問を投げかけているのでは、と思ってしまうのだ。
ひとつのものを見るのには、反対に向き合う互いの目がある。こちらがそう思って疑わないものでも、
相手から見れば、ちょうど鬼退治の悲劇のように、まさに正反対に見えることもあるはずだ。
そうした場合、視線と視線はぶつかり合い、真ん中で火花を散らすことになる。
こうした一方的な見方から起こる行き違いをさけるために、こんな工夫をしてみてはどうだろうか。
まず、こちらの視線をまっすぐに相手方に伸ばす。そして、その視線が相手側に着いたら、逆にUターンさせて、
今度は、相手側の視線で、こちら側を見てみるのだ。できれば、相手側も、このUターンの視線を持ってくれると、なお良いだろう。
そうすることで、例えば、互いが鬼ケ島のように思い込んでいる島々も、もっと穏やかなものに見えてくるのでは、と思う。