私は経営学部の教員だが、経営学に詳しいわけではない。だから、最初のころ、経営学のいろんな領域の中で、
組織論がその中核に位置すると聞いたとき、ずいぶん驚いた記憶がある。その頃は、長く企業にいた経験が逆に働いて、
優れた人材さえ集めれば、組織なんて関係ないだろう、とタカをくくっていたのだ。
けれど、ここ十数年ばかり学生たちを教えてみて、企業はもちろんのこと、社会全体、国全体の発展を左右するのは、
一にも、二にも組織の力だということを思い知るようになった。
私のゼミの学生数は、20数名だ。本来なら個別指導が良いのだろうがそれもなかなかむつかしく、
いきおい何グループかに分けて、あるひとつのテーマに沿った演習を行うことになる。
そこで数名ずつの組織が生まれるというわけだ。その場合、どの学生とどの学生が組むかは、いつもクジで決める。
1グループ6?7名の学生の集まりだから、組織力なんて、と思うかもしれないが、どうしてどうして、
驚くべき成果の差が生まれるのである。企業なら、昇進や給与評価などで、恣意的なコントロールも可能だから、
その分、自然に生まれる組織力の差も見えにくくなる。また、重要なプロジェクトなら、それに向いた人材だけを選り集めることもあるだろう。
一方、こちらはクジによる組み合わせで、メンバー構成は、ほとんど偶然の産物。
また、成績も極端に差をつけた評価をするわけではないから、グループ外からの圧力はほぼゼロに近い。
学生には悪いが、ある意味で、組織力を測るための理想的な実験室みたいなものだ。
結果はといえば、見事なほど成果の違いが生まれるのだ。だが、情けないことに、
未だに、どうしてそんな結果になるのか理由がわからないでいる。優れたリーダーがいたのか、
それぞれの役割分担がうまくいったのか、偶然、責任感の強いメンバーばかりが集まったのだろうか、
などなどそれらしき理由がつけられないわけではないが、要は、人と人の組み合わせ次第で、十の力が百にも千にもなるということだ。
国全体でみれば、少子高齢化で、生産年齢人口が減り続けているとか、女性の活力をもっと利用すべきだという声は大きい。
それも確かだが、私には、もっと大きな力が、この人間界には存在しているような気がしている。