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エッサイ

2013 / 12 / 10

デザインの未来

デザインの未来

先日、NHKで、今人気のデザイナー佐藤オオキさんを紹介する番組(2013年11月25日放送「プロフェッショナル 仕事の流儀」)があった。
佐藤さんは建築の出身だけれど、空間造形にとどまらず、プロダクトからパッケージまで、その幅広い活動領域でも知られている。
そのせいか、現在かかえている仕事だけでも250件というから、目のまわりそうな忙しさだ。

ただ、番組全体を見終えて、気になったところがあったので触れておきたい。
それは、番組内でもかなりの時間をさいて紹介されていた部分でもある。佐藤さんは今35歳で、一般に注目を浴びるようになったのは、
ここ5、6年くらい前からのことだ。きっかけは、佐藤さんがミラノサローネに出展した家具を、
イタリアデザイン界の重鎮、ジュリオ・カッペリーニがほめたことだった。以来、佐藤さんは、
ミラノにいるカッペリーニのもとに日本から通いつめ、70案ほどのイスのデザインを提案する。その中のひとつが、
佐藤さんの代表作でもある椅子「ribbon」に結実したのだった。

番組内で、佐藤さんは、カッペリーニに出会う前の自分を振り返って、「そのころの自分は、社会にいらない人間なのでは」と悩んだと語っている。
20代の佐藤オオキは、この国日本では、いてもいなくてもよい存在だったのだ。

僕の番組の見方が少しひねくれているのかもしれないが、現代のデザイン界を代表するといっても言い過ぎでない
佐藤オオキの真価を見出したのは、僕たち日本人ではなく、遠く海を隔てた地球の裏側のイタリア人だったのである。恥ずかしくないか。

佐藤さんが、何度も自費でミラノに足を運んだのは、日本では自分の才能を正しく評価する目のないことを、
それまでにいやというほど味わったからに違いない。このことは、デザイン界にとどまらない。もうこれまで何十年も、
いやもっと前から、アートや文学や、映画の世界、また学術の世界でも繰り返されてきたことだ。私たちの目はいつも、外国人の借り物なのである。

第二、第三の佐藤オオキが、今、この瞬間にも、この国のどこかにいるに違いない。その才能を、今度こそ、
僕たち日本人の目で探し出すことができるのだろうか。僕は、デザイン界に生きる人間の一人として、この番組をきっかけに、もう一度、襟を正そうと思っている。