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インタビュー

2013 / 05 / 03

東畑 幸多


(株)電通
コミュニケーション・デザイン・センター
クリエーティブ・ディレクター

LINK

○ リクルート「山田悠子の就職活動」

http://www.youtube.com/watch?v=Kkh83NgHRmQ
(前半)

http://www.youtube.com/watch?v=S_Zdper2WH8
(後半)

○ 江崎グリコ「オトナグリコ」

http://www.youtube.com/watch?v=aEczTyjY20E

○ 朝日新聞「南アフリカの父へ」

http://shiga-motherlake.jp/essay/essay13.html

○ JR九州「祝!九州新幹線」

http://www.youtube.com/watch?v=UNbJzCFgjnU

挫折して、自分にできないことを知ること。そこから、チャンスがはじまる。

1999 年 4 月に電通に入社。リクルート、家庭教師のトライ、グリコ、サントリー、日清、トヨタ自動車などを担当し、多数の広告賞を受賞。さらに江崎グリコ「アーモンドプレミオ/ディアカカオ」キャンペーン(「オトナグリコ」)で、2009年度『クリエーター・オブ・ザ・イヤー』を受賞。近年の仕事に、Wカップ『南アフリカの父へ』や、JR九州『祝!九州新幹線』、サントリー『ゼロの頂点』、TOYOTA『ReBRON』などがある。JR九州『祝!九州新幹線』キャンペーンでは、開通を喜ぶ人々のストレートな表現が評価され、2012年度TCC(東京コピーライターズクラブ)賞グランプリを獲得した。

―まずお伺いしますが、最初に手ごたえを感じた仕事は何ですか。

東畑―やはり、リクルートの『山田悠子の就職活動』の仕事ですね。あの仕事は予算が少なかったので媒体費がかけられない。だからその分、コンテンツとして機能するおもしろいCMを作ってネットで広げるしかない、という覚悟が決まりました。そこで自分と同じ年代の演出家と一緒に、情熱を持って手づくりでつくりあげました。実は撮影場所も、リクルートの実際の会議室をそのまま使っていたりするんです(笑)。でも結果的に大げさにならず、リアルなシチュエーションで実際に就活する学生の立場に近いCMができたと思っています。実際に、ブログ等で学生達からの反響を見た時はうれしかったですね。

―『コンテンツとしてのCM』というキーワードが出てきましたが、江崎グリコの『オトナグリコ』のCMも、その考え方は意識されていたのですか?

東畑―そうですね。『オトナグリコ』の時は、まず誰もが子ども向けだと思っている『グリコ』を、実際に大人用のグリコとして商品開発できたらおもしろいんじゃないかと思ったんです。さすがに商品の発売こそできませんでしたが、同じように誰もが知っている有名な子どもである「カツオやタラちゃんが大人になったら・・」という生活者が見たいコンテンツが作れたかなと思っています。また、これほどインターネット等が発達した時代ですので、長々としたキャッチコピーよりも『オトナグリコ』のように、ひとことのあだ名的なキーワードの方が世の中に話題を作りやすい時代になっていると感じます。

―なるほど。「世の中に話題をつくる」というお話しがありましたが、「南アフリカの父へ」という新聞原稿もかなり話題になりましたよね?

東畑―あの広告は、日本代表が不調でWカップの盛り上がりに欠けていた時期に、「なんでもいいから、とにかくWカップを盛り上げる施策を考えて欲しい。」というオーダーできた仕事です。しかし単純に「日本代表を応援しよう!」みたいなメッセージを発しても、逆に応援したくなくなってしまうのが人間じゃないですか(笑)。そこで、その時ヒントにしたのは、K-1等の格闘技の試合前に流れる、選手のバックストーリーを描いた映像です。過酷な練習風景や事前インタビューを通して、戦う動機や生い立ちなど人間的な魅力を描く。あの映像が流れるからこそ、単なるすごいケンカで終わらずに、より深く選手に感情移入して盛り上がれるんだと思います。そこでその考え方を応用して、今回岡田監督に違う視点から光を当てることで、応援したい空気をつくれるのではないかと思ったわけです。その視点とは、岡田監督の監督としてはではなく、社会で妻と子どもを守るために働く、夫として、父としての面です。そして調べてみると、オランダ戦の前日がちょうど父の日だということが分かりました。そこで、娘から父への手紙を新聞に載せるという企画が生まれたのです。とは言え、実現にあたっては、直前まで世論の動きやリスクに気をつけながら、ギリギリまで表現等に粘って、世の中に出すことができました。おかげで、ネットやテレビ等で掲載直後から多くの反響を頂くことができました。

―ネット等のメディアでいかに広がるかを意識されているようですが、東畑さん自身は、メディアが複雑化する現代をどのように捕らえていますか?

東畑―確かに昔は、テレビや新聞という影響力の強いメディアが先に決まっていて、そこでどんなメッセージを流すかだけにこだわればよかった時代がありました。しかし、今はfacebookやtwitter等ソーシャルメディアをはじめ、OOHや商品開発など、様々な解決策の選択肢があり、広告が複雑化している点は否めません。ただ、今の時代は「本当におもしろいものを作れば、世の中に勝手に広がっていく時代」と考えることもできるのではないでしょうか。結局、世の中にどんなコンテンツを投げ込むかと言う、そのシンプルな時代に戻ってくるような気がしています。

―「世の中で勝手に広がった広告」として、実感するようになった仕事などはありますか?

東畑―そうですね。『祝!九州新幹線』の仕事は、まさに勝手に広がった広告と言えると思います。このCMは、九州に新幹線が全線開通した歓びをウェーブのようなお祭り感で示すという企画だったんですが、震災後に『元気がでる広告』として自発的に広がりました。当初このCMをオンエアした直後に震災が起きたのですぐに放映を自粛していたのですが、震災後の暗いNEWSが続く中、twitterやyoutube等ネットの口コミを通じて一気にCMがシェアされていったようです。そして最終的には多くの視聴者の声により、再びオンエアが決定したのです。ちなみにこの企画に関しては、なによりも実現のために動いてくれた男気のあるクライアントさん方のチカラが大きかったと思います。

―東畑さんは仕事される際に、自分の中で心がけていることは何ですか?

東畑―その広告に触れたひとのココロのなかに『!(びっくりマーク)』と『?(ハートマーク)』を残すことを意識しています。最近の広告では、どちらかというか目立つことだけ、つまり『!』だけの企画が多いような気がします。『!』だけだと、一瞬注目を集めてもその商品のファンにはならずに、すぐに消えてしまう。だから、きちんと『!』の隣に『?』があることが、ますます大切になってくると思っています。

―最後に広告業界を目指す学生や、若手クリエイターにメッセージをお願いします。

東畑―若いうちにしっかり挫折して、自分にできないことをちゃんと知ること。そこから、すべてのチャンスが始まると思っています。僕自身も若手の頃、どんなに練習してもうまいコピーが書けなかった。下積み時代に自分の弱点を身にしみて感じて初めて、自分は「コピーがうまいコピーライター」といかに違うところで戦っていけるか、という思考をすることができました。自分自身の挫折と向き合うことで、おのずと自分らしいクリエイターとしての生き方が確立していけるのではないかと思っています。

インタビュアーの+α

広告の目的は、商品を売ることだと思われがちだが、実は違う。人の心を動かすことだ。もちろん映画やゲームではないのだから、単に楽しんだり、感動しただけではダメなのだが、違いは、その方向が商品の売りに向かっているだけのことである。ひとことで人の心を動かすと言っても、それは容易なことではない。この才能に恵まれた人は限られる。そして、その実現に向かって努力する人もそう多くはない。東畑さんはそうした数少ないクリエイターの中の一人だ。彼がインタビューの中で、!だけでなく、?を残すことを意識していると語ったのは、その意味である。夕食を囲みながらのインタビューが終わったのは、夜の9時を少し回ったところだった。「これからまだ、スタジオでの作業がありますから」と、タクシーに乗り込んで行った東畑さん。今度はどんな?なのだろうか。