トラベラーズノート デザインフィルという会社の名前を聞いたことがあまりない人でも、とくに女性なら、文具のミドリというブランド名はどこかで聞いたことがあるはず。私のまわりでも、デザインフィルはあこがれの就職先という女子学生も少なくない。彼女たちのカバンの中には、たいてい一つや二つは、当社の製品が潜んでいるのだ。社名のとおり、当社はデザインを企業経営の前面にかかげる企業で、社長の会田一郎(あいだいちろう)さんには、「デザインで視せる企業価値」(幻冬舎)という著作もある。デザインをビジネスの柱として躍進する現代の代表的経営者の一人である。 ―企業理念を拝見しますと「デザインを通じて新しいライフスタイルとコミュニケーションを創造・提案をし、社会と文化に貢献していきます」とありますが、これほどデザインに力を入れられている理由を聞かせてください。 会田―私は米国のビジネススクールを出て、そのままアメリカで会計コンサルティングの会社に勤めていました。その後1988年に帰国し、父親が経営していた文具の会社(旧ミドリ)に入社したのです。当時の会社は、キャラクターを売り物にした文具の製造販売が中心でした。でも、ストーリーがきちんとあるキャラクターなら別ですが、かわいらしい絵がただついているだけではなかなか売れません。そこで、それまで小学生が中心だったターゲットを、20代、30代の女性へとがらりと変え、そうした人たちに合わせたデザイン文具を作って売ることにしたのです。経済が成熟するにつれ、必ずそういった女性たちがわが社の顧客となることを信じていました。 ―会田社長にとって、デザインとは何でしょうか。 会田―ひとことで言って、デザインとはパッションですね。つまり、情熱です。私はカワイイとか、なごむとかいう気持ちもひとつのパッションだと思っています。デザインには必ず、何か情熱のようなものがないと、魅力が出てこないのです。たとえば、ここにあるのは「トラベラーズノート」という、最近のうちのヒット商品なのですが、ぱっと見たかぎりでは、よくある製品のような高級感のようなものはありません。むしろ、ゴムバンドで止められただけのカジュアルな仕上げになっています。でも、この6年間で23万冊を超える大ベストセラーになっているのです。 ―トラベラーズノートのヒットのひみつは何だったのでしょうか。 会田―これを開発したのは、三十代(当時)の男性社員なのですが、彼自身のライフスタイルが、このノートそのものなのです。トラベラーズノートとは、とくに旅に出るときに持つノートという意味ではありません。「毎日を旅するように過ごす」?旅先での小さな発見や想い出を綴るように、日常をしたためる?がそのコンセプトです。つまり、彼自身がこんなノートをぜひ持ってみたいという情熱が、こうしたデザインのノートを作り上げたとのだと思っています。今では、このトラベラーズノートのコンセプトを生かした「トラベラーズファクトリー」というフラッグシップショップも作り、彼がブランドマネージャーをやっています。 トラベラーズファクトリー(東京・中目黒)の店内 ―この商品を初めてご覧になったとき、ヒットの予感がありましたか? 会田―正直なところ、これほどのヒット商品になるとは思っていませんでした。企画の段階で、この商品はうまく行きそうだと、私の判断が当たるのは、だいたい6:4、最近ではもう少し上がってきて、7:3くらいの確率でしょうか。ただ、商品としてうまくいくといっても、マイナーチェンジも含めれば、年間1200点くらいの新製品を出すのですが、そのうち、3年間生き残る商品が約70%、10年間もつ商品が10%、20年以上のロングセラーとなると、ほんの数パーセントです。 ―そうしたデザイン判断でもっとも大切になされていることは何でしょうか。 会田―イメージのズレをなくすことが大切だと考えています。少しのズレを放っておくと、いつの間にか自分の会社でなくなってしまうのですよ。たとえば、ある展示会で、直前に上がったメイン展示商品のできが今ひとつで、急遽、展示を取りやめたことがありました。センターディスプレイを埋めるのは大変でしたが、モノづくりへのこだわりとデザインの方向性を誤解される方が、会社にとってはマイナスになると判断したのです。あと数時間でお客さまが入場して来られるという、展示会のオープン直前のことでしたが、私はその商品を展示からはずさせました。文具の機能や魅力を引き立たせるために、私の会社のデザインはあるのです。おもしろい、だけでは私たちの会社のアイデンティティは無くなってしまうというのがその理由です。文具の機能や魅力を引き立たせるために、私の会社のデザインはあるのです。おもしろい、だけでは私たちの会社のアイデンティティは無くなってしまうのです。 スィングバード ―デザインフィルが目指しているもののひとつに、”アクセント オン ライフ”という事業領域があるとうかがいましたが、最後に、この意味についてお聞かせください。 会田―文字どおり、日々の暮らしにアクセントを添えて、生活を楽しく彩る、という意味です。いわば、生活の中に「!」マークを添えてあげると言ってもよいでしょう。例えば、修正テープの「スイングバード」という商品があります。キュートなデザインというだけでなく、必要なときにすぐ見つからないという問題に対する解決策をデザインに込めてあります。机上でスウィングする状態で、立っていればすぐに見つけることができます。機能とデザインを融合したところに私たちの”アクセント オン ライフ”はあるのです。 会田社長に初めてお会いしたのは、もう六、七年前のこと。そのときは社名もまだミドリで、社屋はたしか東京の下町にあった。当時の古い社屋を訪ねて驚いたのは、デザインを企業経営の柱としていくことをはっきりとかかげた額のようなものが、玄関に大きく掲げてあったことだ。そのときすでに、会社のCIを考えていること、社屋を東京の中心に移転する計画を持たれていることなどを聞かせてもらった。デザインを企業経営の一要素としてとらえている企業は少なくない。しかし、多くの企業にありがちなのは、世の中のはやりすたれに呼応するように、デザインを持ち上げてみたり、またいつしか隅っこの方に追いやってしまうことだ。そんな中にあって、会田さんのデザイン経営には、一貫してゆるぎないものがある。心底、デザインの力を信じているからに違いない。
デザインフィルという会社の名前を聞いたことがあまりない人でも、とくに女性なら、文具のミドリというブランド名はどこかで聞いたことがあるはず。私のまわりでも、デザインフィルはあこがれの就職先という女子学生も少なくない。彼女たちのカバンの中には、たいてい一つや二つは、当社の製品が潜んでいるのだ。社名のとおり、当社はデザインを企業経営の前面にかかげる企業で、社長の会田一郎(あいだいちろう)さんには、「デザインで視せる企業価値」(幻冬舎)という著作もある。デザインをビジネスの柱として躍進する現代の代表的経営者の一人である。 ―企業理念を拝見しますと「デザインを通じて新しいライフスタイルとコミュニケーションを創造・提案をし、社会と文化に貢献していきます」とありますが、これほどデザインに力を入れられている理由を聞かせてください。 会田―私は米国のビジネススクールを出て、そのままアメリカで会計コンサルティングの会社に勤めていました。その後1988年に帰国し、父親が経営していた文具の会社(旧ミドリ)に入社したのです。当時の会社は、キャラクターを売り物にした文具の製造販売が中心でした。でも、ストーリーがきちんとあるキャラクターなら別ですが、かわいらしい絵がただついているだけではなかなか売れません。そこで、それまで小学生が中心だったターゲットを、20代、30代の女性へとがらりと変え、そうした人たちに合わせたデザイン文具を作って売ることにしたのです。経済が成熟するにつれ、必ずそういった女性たちがわが社の顧客となることを信じていました。 ―会田社長にとって、デザインとは何でしょうか。 会田―ひとことで言って、デザインとはパッションですね。つまり、情熱です。私はカワイイとか、なごむとかいう気持ちもひとつのパッションだと思っています。デザインには必ず、何か情熱のようなものがないと、魅力が出てこないのです。たとえば、ここにあるのは「トラベラーズノート」という、最近のうちのヒット商品なのですが、ぱっと見たかぎりでは、よくある製品のような高級感のようなものはありません。むしろ、ゴムバンドで止められただけのカジュアルな仕上げになっています。でも、この6年間で23万冊を超える大ベストセラーになっているのです。 ―トラベラーズノートのヒットのひみつは何だったのでしょうか。 会田―これを開発したのは、三十代(当時)の男性社員なのですが、彼自身のライフスタイルが、このノートそのものなのです。トラベラーズノートとは、とくに旅に出るときに持つノートという意味ではありません。「毎日を旅するように過ごす」?旅先での小さな発見や想い出を綴るように、日常をしたためる?がそのコンセプトです。つまり、彼自身がこんなノートをぜひ持ってみたいという情熱が、こうしたデザインのノートを作り上げたとのだと思っています。今では、このトラベラーズノートのコンセプトを生かした「トラベラーズファクトリー」というフラッグシップショップも作り、彼がブランドマネージャーをやっています。 トラベラーズファクトリー(東京・中目黒)の店内 ―この商品を初めてご覧になったとき、ヒットの予感がありましたか? 会田―正直なところ、これほどのヒット商品になるとは思っていませんでした。企画の段階で、この商品はうまく行きそうだと、私の判断が当たるのは、だいたい6:4、最近ではもう少し上がってきて、7:3くらいの確率でしょうか。ただ、商品としてうまくいくといっても、マイナーチェンジも含めれば、年間1200点くらいの新製品を出すのですが、そのうち、3年間生き残る商品が約70%、10年間もつ商品が10%、20年以上のロングセラーとなると、ほんの数パーセントです。 ―そうしたデザイン判断でもっとも大切になされていることは何でしょうか。 会田―イメージのズレをなくすことが大切だと考えています。少しのズレを放っておくと、いつの間にか自分の会社でなくなってしまうのですよ。たとえば、ある展示会で、直前に上がったメイン展示商品のできが今ひとつで、急遽、展示を取りやめたことがありました。センターディスプレイを埋めるのは大変でしたが、モノづくりへのこだわりとデザインの方向性を誤解される方が、会社にとってはマイナスになると判断したのです。あと数時間でお客さまが入場して来られるという、展示会のオープン直前のことでしたが、私はその商品を展示からはずさせました。文具の機能や魅力を引き立たせるために、私の会社のデザインはあるのです。おもしろい、だけでは私たちの会社のアイデンティティは無くなってしまうというのがその理由です。文具の機能や魅力を引き立たせるために、私の会社のデザインはあるのです。おもしろい、だけでは私たちの会社のアイデンティティは無くなってしまうのです。 スィングバード ―デザインフィルが目指しているもののひとつに、”アクセント オン ライフ”という事業領域があるとうかがいましたが、最後に、この意味についてお聞かせください。 会田―文字どおり、日々の暮らしにアクセントを添えて、生活を楽しく彩る、という意味です。いわば、生活の中に「!」マークを添えてあげると言ってもよいでしょう。例えば、修正テープの「スイングバード」という商品があります。キュートなデザインというだけでなく、必要なときにすぐ見つからないという問題に対する解決策をデザインに込めてあります。机上でスウィングする状態で、立っていればすぐに見つけることができます。機能とデザインを融合したところに私たちの”アクセント オン ライフ”はあるのです。