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インタビュー

2013 / 05 / 03

柴山 桂太


滋賀大学経済学部 准教授

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マザーレイクインタビューNo.12扉写真

お年寄りに、もの申したい―今の若い人たちの苦境を考えてほしいですね。

柴山桂太(しばやまけいた)さんは、彦根にある滋賀大学の経済学部で教鞭をとる新進の経済学者だ。縁があって、今回、お話をうかがう機会を得た。柴山さんは、京都大学の出身で、師は佐伯啓思(さえきけいし)先生。佐伯氏は、経済に限らず、社会問題全般をつねに冷静な目で見つめ、バランスのとれた論客として評価が高い。その教えを受けた柴山さんも、世評に流されない核心をついた発言で、近年、注目を浴びている。近著に「グローバル恐慌の真相」(中野剛志氏との共著 集英社新書)がある。

―芝山さんの視点から見た、現在の経済社会がかかえる課題から、おうかがいしたいのですが。

柴山―まず、行き過ぎた競争社会ということがあげられると思います。例えば、世界で一番競争が激しいのは、どこだと思われます? きっとアフリカのサバンナのような、猛獣がウロウロしているようなところでしょう。だって、弱い動物は少しでも油断していると、ライオンなんかにすぐ食べられてしまうわけですから。もちろん、人間もそんなところでは生きていけません。
逆にいえば、人間社会でも、競争を放置していれば、こうしたアフリカの草原地帯のような弱肉強食の世界なってしまうのです。そうならないのは、人間社会には、弱い人たちでも生きていけるような、きちんとしたルールや規制、必要な介入が行われ、人間ならではの文明社会が築かれているからなのです。

―他方、競争社会のおかげで、モノが安くなっているわけですが、それがあまりにひどい状況になっているということでしょうか。

柴山―そうですね。今、求められていることを、一言でいうと、「成熟した消費」ということだと思います。安いものなら何でもよい、という考え方ばかりではいけないと思うのです。私の父の仕事は、テーラーでした。背広などの注文服づくりです。もともと背広は西洋の技術が伝わったもので、父などは、それを日本人の体形に合わして作ることに工夫を重ねていたのです。それが今は、量販店に行けば、中国の安い人件費で縫製した製品が、一着一万円くらいで売られているわけです。
それに比べて、イタリアなどでは、洋服屋さんでも、靴屋さんでも、個人の店がきちんと残っているし、ワインも地元産のワインを飲みます。何でもよいから安いものを買い求めるという生活の仕方ではなく、ものづくりの文化が、今でもちゃんと残っているのです。これが私の言う「成熟した消費」の意味なのです。

―これは、日本だけの現象なのでしょうか。

柴山―こうした現象はアメリカでは、ウォルマートプロブレムと呼ばれています。ウォールマートのような巨大スーパーが出店してくると、野菜屋さんだとか肉屋さんだとか、みんなつぶれてしまいますから、町のコミュニティ自体がなくなってしまうのです。例えば、地域の消防団だとか、学校のPTAで活動をするとかができなくなってしまうのです。

―その意味では、もはやアメリカ的な生活や経済的繁栄は、私たちが目標とするところからはズレてしまっていると。

柴山―最近、私のゼミの学生がアメリカ留学から帰って来て、「先生、アメリカより日本の方がずっといい。ずっと暮らしやすい」と言うのです。たしかにアメリカは、一見、繁栄しているように見えますが、治安は悪く、社会全体がストレスに満ちて、ギスギスしている感じです。ご存じのようにヨーロッパでも、若者の失業率は非常に高いですし、その意味でいえば、日本の若者は、資本主義のフロントランナーにいると言ってもよいのです。最近、若者の海外へ出かけて行く意欲が薄れていると言われますが、こういう状況ですから、海外へ出て行こうなんて思わないのが当たり前ではないでしょうか。

―その若い人たちに、これからの新しい時代を築いていくために、どんなことを望まれるでしょうか。

柴山―そうですね、若い人に一言いう前に、僕としては、今のお年寄りのみなさんにまず、一言いいたいですね。例えば、今の若者は元気がないとか、チャレンジ精神が足らないとか言われますが、よく考えてみてください。高度成長時代であれば、年率7%の経済成長としても、10年間で所得は2倍になります。つまり、10年、20年一生懸命働けば、自分の家が建ったわけです。ところが、今の若い人たちは、生まれて以来、名目成長率は、ほぼゼロ成長です。とてもローンを組んで家を建てたり、何か新しいビジネスをやってみようという経済環境にないのです。

―たしかに。では、彼らはどうやってこの厳しい時代を生きてゆけばよいのでしょう。

柴山―自分の直感を信じて生きて行って欲しいですね。自分に正直に生きていくと言い換えてもよいかもしれません。これまでの時代は、欧米というお手本があったわけですから、その後をついて行けばよかった。でも、今の日本の若い人たちは未知の領域にさしかかっているのです。例えば、必ずしも企業に入って生きることが正しいかどうか。私の父のように、洋服の仕立て屋さんとして生涯を送ることも、ひとつの選択肢なわけです。今は、戦前に比べれば、モノもサービスも圧倒的に進歩して便利な世の中になっています。その意味からいえば、生き方や考え方を戦前に戻して、「バージョンアップした戦前社会」を実現することが、これからの日本のあり方だと思います。

インタビュアーの+α

経済学の世界が、今、私たちが生きている時代からかけ離れたものとなって久しい。だから経済学がいらなくなったのではない。むしろ、私たちのくらしは、荒れ狂う新自由主義、金融資本主義、グローバル経済のあおりを受けて、翻弄され続けている。そして、その適切な処方箋は、世界の政治家たちが額をつけ合せて相談しても、なかなか見つからないのだから、今のところ、ほぼお手上げ状態と言ってもよい。けれどそこに、これから世界が目指すべき、何か新しい道を指し示すことができる人がいるとしたら、それはきっと、どこかの国の、新しい思想、新しい視点を持った経済学者のはずだと思っている。今回、東京の出版社の知人から、柴山さんを紹介してもらった。私は専門家ではないから詳しいことはわからないが、氏は、これからの経済学が進むべき新しい道を、しっかりとした足どりで歩み始めている人だと確信した。