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ものづくり

2014 / 08 / 16

信楽焼

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信楽焼

こんな、かわいいタヌキもいるんだ!

信楽焼のおこり

信楽(しがらき)焼きの土は、大昔、琵琶湖の底に眠っていた土。紫香楽焼きの少し荒くれた、そして力強い肌あいは、そこから生まれる。火に強く、粘り気のある土は、壺や瓶(かめ)などの大きなものから、茶碗や皿などの小物まで、用途の幅は広い。信楽の店先を巡ると、カサ立てに使われるような大きな瓶から、小ぶりの湯のみ茶碗まで、さまざまな商品がならんでいるのはそのせい。

日本の焼き物の歴史は、世界的にみてもたいへん古い。縄文土器でいえば、今から一万年以上も前にさかのぼる。日本の焼き物の流れは二つあって、ひとつは、縄文土器につづく弥生土器以来の日本固有の技術から生まれたもの。それらはやがて、土師器(はじき)とよばれるようになったのだけれど、今では、その系統はほとんど絶えてしまった。
もうひとつは、中国から伝わった、須恵器(すえき)と呼ばれる流れ。日本古来のものくらべ、焼くときの温度も高く、轆轤(ろくろ)技術をそなえていた。その須恵器が日本に伝わったのは、五世紀の中ごろのこと。その系統はやがて、表面に釉薬(ゆうやく:うわぐすり)を施したものと、そうでないものとに分かれていく。これが、焼き物を見るときの、いわばタテの目。

もうひとつのヨコの目とでもいうべきものはわかりやすく、陶器と磁器の違い。陶器は土の成分でできている。一方、磁器は石の成分からできている。焼くときの温度も磁器の方が高く、見た目にも、磁器は白く輝き、硬く、陶器とちがって親水性もない。そして、中国で生まれた磁器づくりの技術が、日本で完成されたのは、江戸時代の初めの17世紀と新しい。

私たちは、今、磁器と陶器の違いをあまり意識しない。たとえば、皿やお茶碗は磁器、湯のみは陶器と、そのときどきのシチュエーションにあわせて、両方をおりまぜて使っているのがふつう。

信楽焼きは、タテとヨコの目でいえば、須恵器の流れをくむ、もともと無釉(むゆう:うわぐすりをかけない)の陶器。平安時代の終わりごろの、12世紀の末くらいがその起こりとされる。日本の古い窯場である越前、瀬戸、常滑(とこなめ)、丹波、備前、そして信楽を中世六古窯とよぶ。そのころから、壺、甕(かめ)、擂鉢(すりばち)などが作られ、さらに、室町・桃山の時代をむかえると、茶人をはじめとする文化人に、その素朴で力強い作風が好まれるようになった。今日の信楽焼きのイメージが出上がっていったのもこのころからで、さらに江戸時代に入ると、商業の発達にともなって、茶壺や、土鍋、徳利、水甕などの日常雑器もたくさん生産されようになっていった。

明治以降の信楽焼

明治以降の信楽焼きの歴史は、日本人の生活文化のうつりかわりといっしょに歩んできた。明治から昭和30年代にかけて、信楽焼きを支えていたのは、火鉢の生産。今の人に言わせれば、火鉢って何、という声も聞こえてきそうだけれど、少し前まで、火鉢は冬の暖房器具として日本のどの家にも欠かせないものだった。炭や練炭(れんたん)を入れて、家族全員が火鉢の周りにあつまり、寒さでかじかんだ手をかざして、暖をとったもの。火に強く、大きな焼きものに向いた信楽焼きの性質と、なまこ釉(ゆう)とよばれる信楽独特の釉薬による表面仕上げが、全国の人々に受け入れられたのだ。

左?明治時代に作られた火鉢 / 右?火消し壺

けれど、昭和40年代に入り、石油ストーブ、電気こたつが家庭に普及しはじめると、状況は急変。さらに時代が進むと、エアコンの登場などもあって、もはや、火鉢の出番はほとんどなくなってしまった。

ただ、その火鉢生産と入れかわるように信楽を救ったのが、植木鉢の生産。団地の小さなベランダに、鉢植えの草木を育てるゆとりが、人々の生活にも出始めるころのことだ。今でも、この植木鉢生産の比重は大きい。

もうひとつ、信楽焼きといえば、忘れてならないものがある。そう、あのタヌキの焼き物。ところで、なぜ信楽はタヌキなのか。そこには、こんな理由があるという。
戦後の昭和26年(1951年)、昭和天皇が信楽を訪問された。人口の少ない信楽のまちでは、道ぞいにタヌキの焼き物もいっしょに並べて天皇陛下をお迎えした。陛下はこれにたいへん感激され、歌まで詠まれたという。こうした、タヌキの焼き物といっしょに陛下を迎える信楽の様子が、ニュースとして全国に伝わり、さらに陛下も歌まで作られたとあって、一躍、信楽のタヌキの焼き物が、日本全国に知れわたったというわけだ。

今日の信楽焼

左?新しい作風の信楽 / 中?伝統的な信楽の風合いを生かした花器 / 右?傘立て

では、現代の信楽焼きの魅力は、どんなところにあるだろう。それは何といっても、バラエティーにとんだ製品群にある。大きなものでは、傘立てや花器、そしてコーヒーカップや小さなお皿まで、陶器で手に入らないものはまずない。もちろん、タヌキやフクロウなどの置物、インテリア製品もたくさんある。

また、それだけではない。現代的な生活に合った、新しい信楽の魅力を作っていこうという動きも盛ん。たとえば、こんな傘立てを見つけた。ごらんのように一人用の傘立て。デザインは、イタリアのデザイナーによるらしい。

タヌキだって、これまでのモノと違った斬新なデザインのタヌキもたくさん作られ始めている。私が出会ったのは、真っ白いタヌキ。みなさんも、信楽の窯場を散策しながら、自分なりの焼き物を見つけてはどうだろう?