検索アイコン

ものづくり

2014 / 08 / 16

中川木工芸 比良工房

LINK

中川木工芸 比良工房

「Konoha(このは)」(シャンパンクーラー)「Konoha(このは)」(シャンパンクーラー)

中川木工芸 比良工房

湖西線のJR志賀駅から比良の山すそに 5分ほど車で入ったところに、木工作家の中川周士(なかがわしゅうじ)さんの工房はある。
車で5分といっても、もうあたりはすっかり深い緑に囲まれていて、ほんとうに山の中。

出迎えていただいた中川さんの奥様に案内され、工房に一歩足を踏み込むと、ビックリ。
床も壁も、工具と材料の木材で足のふみ場もない。とくに、正面の壁に並べられた鉋(かんな)の数に圧倒される。
その数、ざっと300種。そして、床には見たこともない、鋭い刃先のついた工具がちらばっている。
そのスキ間を、説明のためにヒョイヒョイと飛びまわる中川さんに、お客の私の方が思わず、「足元に注意してください」と言いたくなるくらい。

中川木工芸 比良工房の写真

中川さんは、木工芸家で人間国宝(重要無形文化財保持者)の中川清司さんを父に、京都で生まれた。
中川家は、もともと祖父の亀一さんが始めた桶づくりが仕事の中心。三代目にあたる周士さんも、美術大学の立体造形科を出たあと、
父清司さんに師事し、桶、指物(さしもの)、刳物(くりもの)、ろくろなどの技術を学んだ。

ところで、桶って、どうやって作るか知ってます?もちろん、私も、中川さんから教えてもらうまでは、まったくわからなかった。

桶の制作行程を写した写真1割り鎌で材料の木を割っていき、それを竹釘と糊などでつないでいく。
桶の制作行程を写した写真2円形になった板を仮止めして乾燥させる。サイズもいろいろ。

まず、割り鎌(わりがま)で、材料の木を割っていく(最初、何に使うのかわからなった工具が、実はこの割り鎌だった)。
材料の木は、檜(ヒノキ)や槇(マキ)や椹(サワラ)。ヒノキはヒノキ風呂で知られるように、スッとした香りが高い。
それだけに、直接、食べ物に香りがうつっては困るおひつなどには、あまり向かないとか。それに比べて、サワラは、嗅がせてもらったけれど、柔らかい香り。

割った木を粗削りした後、竹釘(たけくぎ)と続飯(そっくい・ごはん糊のこと)などで、円になるようにつなげていく。
そうして桶の形になったものを、仮止めして乾燥。底板を張って出来上がりとなる。説明すればなんだか、
すぐにでもできるみたいだけれど、一日に、2?3個作るのが精いっぱいとか。

中川さんが制作するのは、いわゆる伝統的な桶だけではない。菓子鉢や、ぐいのみ、ピッチャー、
そして写真のような、とてもモダンなシャンパンクーラーまでさまざま。とくにワインクーラーは国内外で人気が高く、
生産が追いつかないくらいとか。また、海外では、什器のひとつとしてではなく、芸術品としての扱いを受けることも珍しくないそうだ。

京都で生まれた伝統的な技が、滋賀の地で現代的な美に育ち、それが世界の人たちに受け入れられる。
中川さんの木工芸は、まさに、これからの日本の伝統工芸のあるべき姿の象徴と言ってよいだろう。