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旅歩き

2013 / 05 / 03

石山寺

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石山寺

石山寺

石山寺

石山寺(いしやまでら)と聞いて、どんなことを思い浮かべるだろう。―石の山、そう、それで正解。
少し大げさにいうと、石の山の中に寺がある、それが石山寺。もちろん、ゴツゴツとした岩山のような境内を想像してもらっても困るけれど、例えば、急な石段を登り切ったところの正面に、ドーンと巨大な石山がそそり立つ景色は、やはり他のどんなお寺にも見ることはできないのでは。

石山寺の縁起は、天平十九年(747年)、あの奈良の大仏さまを作るときに、そのための黄金が足りなくて、良弁(ろうべん)というお坊さんが、どこからか金が掘り出されることを祈って、この地に如意輪観音(にょいりんかんのん)をまつったのが始まりとか。そのかいあって、二年後に陸奥(むつ、今の東北)の国から、たくさんの金が彫り出されたと言う。大仏造営の危機はすくわれたのだ。

そうしたこともあり、奈良時代から観音の霊地としてあがめられ、平安時代に入って、観音信仰がさかんになると、朝廷や貴族とのむすびつきも強まり、いっそう人々からの信仰もあつくなった。もちろん、今でも、西国三十三ヶ所観音霊場の十三番札所として、お参りの人が絶えないお寺だ。

瀬田川

京阪線石山駅で降りて、すぐに気づくことは、目の前を流れる大きな瀬田川の流れ。もしも時間に余裕があったら、河川敷に降りてみよう(前の道路は自動車の行き来が多いので、必ず信号のある横断歩道を渡ろう)。湖側と逆に向かって流れる瀬田川のゆったりとした風景にひたっているだけでも、こころは、のんびり。

この瀬田川がやがて、宇治川と合流し、木津川を経て奈良へと続く。今みたいにトラックなんてなかった時代に、川の水運は、まさに当時のハイウェイだった。良弁は、ここ石山の地をベースに、近江で集めた木材や資源を、宇治川経由で奈良へと運んだのだそう。

瀬田川沿いの道を石山駅から10分くらい歩くと、石山寺の参道につく。石段を登って、境内に着くと、目の前にそびえるのが、硅灰石(けいかいせき:国の天然記念物)という石でできた巨大な岩山。お寺全体が、この巨大な硅灰石の岩盤の上に建っているというのも、なんだか、うなづける感じだ。

もうひとつ、石山寺で忘れてはいけないのが、日本文学とのつながり。私たちのよく知っている「蜻蛉日記」「更級日記」「枕草子」などの平安文学に出てくるのはもちろん、かの紫式部が「源氏物語」の着想を得たのも、この石山寺だと伝えられている。境内の金堂脇には、当時の様子をしのぶかのように、中に紫式部の人形がすわっている紫式部源氏の間が残っている。

本堂にまつられる石山寺のご本尊は、如意輪観音菩薩。ただ、残念なことに、秘仏のため、そのお姿を拝むことはできない。でも、木々に囲まれた小高い位置に立つ本堂のたたずまいも、いかにも源氏物語ゆかりの地としての趣をただよわせる。

また、石山寺といえば名月の鑑賞でも名高い。近江八景の中でも、「石山秋月」として名をはせているし、また、紫式部が源氏物語の構想を得たのも、向かいの金勝山(こんぜやま)にさし昇る名月が湖面に映るのを見て、その美しい景色に打たれたのがきっかけとも。

そして、その月見の場所として名高いのが、月見亭。瀬田川を見下ろす高台にある。江戸時代の俳人、松尾芭蕉も、月見亭のそばの庵で、しばしば仮住まいをしたとか。そこで芭蕉が残した句が、「石山の 石にたばしる あられかな」という一句。

多宝塔

もうひとつ、石山寺で忘れてはいけないのが、みなさんもどこかで見たおぼえがあるかもしれない、多宝塔の優美な姿。国宝にも指定されているこの塔を寄進したのは、鎌倉幕府を開いた、かの源頼朝。現在は、屋根などの修理のための工事で拝観することはできないのが少し残念(工事は平成24年4月までを予定)。

最後に、石山寺と文学のつながりで、詩人であり小説家でもある、島崎藤村(1872?1943)との関係をご存知? 藤村といえば、信州、今の長野県の木曽で生まれた人。よく知られている、「小諸なる古城のほとり・・・」で始まる「千曲川旅情の歌」も舞台は長野県だから、とくに滋賀県とは関係ないように思える。けれど、実は、ここ石山寺と深い縁があるのだ。

明治26年2月、東京の女学校で教えていた藤村は、教え子との恋愛に悩み、関西への旅に出る。その旅の中で訪ねたのが、この石山寺。そのとき藤村は、愛読していた「ハムレット」を寺に奉納したという。それだけではない、同じ年の5月に再び石山寺を訪れた藤村は、石山寺の元茶所だった密蔵院の一間を借りて、二ヶ月にわたる自炊生活を行った。そして、このときの自らの体験を作品にしたのが小説「春」。今も、山門前の小公園に藤村の詩碑が立っている。

この藤村の青春時代の石山寺との縁にちなんで、寺の入り口脇にあるのが、和菓子と甘味処の「茶丈(さじょう)藤村」。あずきとクルミを求肥餅(ぎゅうひもち:もち米粉を練ったもち)でくるんだ名物「たばしる」は、藤村ならずとも、膝をたたいて喜びそうなくらいのおいしさ。藤村をしのびながら、ちょっとここで、ひと休みするのもいいかもしれない。