五箇荘
五箇荘
五箇荘は近江商人の町。町の中心の金堂(こんどう)地区には、今でも昔ながらの白い漆喰(しっくい)壁の商人屋敷が並ぶ。
近江商人のモットーは、よく知られているように、売り手よし、買い手よし、世間よし、の「三方よし」。
売り手と買い手まではわかるけれど、どうして「世間よし」なの? その秘密は、全国を巡って他国で商売する行商というビジネススタイルにある。
そこでは、買い手に喜ばれるだけでなく、その先々の地域の人々に受け入れられることが肝心。だから、世間よし、なのだそう。
近江商人屋敷で見学ができるのは、中江準五郎(なかえじゅんごろう)邸、外村繁(とのむらしげる)邸、
外村宇兵衛(とのむらうへい)邸、藤井彦四郎(ふじいひこしろう)邸の四つ。そのうち、藤井彦四郎邸だけは、金堂地区から少し離れたところにある。

外村宇兵衛は、東京・横浜・京都・福井などに支店を持った呉服商。中江準五郎は、大正時代から戦前まで、
朝鮮半島で次々に百貨店を開設し、『百貨店王』と呼ばれた三中井(みなかい)一族のひとり。
また、外村繁は、一時、家業を継いだものの、その後、近江商人を題材とした小説家として身を立てた人。
そして、藤井彦四郎は、スキー毛糸の製造を行った大商人だったのだそう。
どのお屋敷も、その部屋の広さに驚くけれど、とくにお座敷からのぞむ庭の広さにはびっくり。
中でも藤井彦四郎邸のお庭は、広大な敷地に、琵琶湖を模した池や築山を配した池泉廻遊式の大庭園だ。
また、台所や各部屋に置いてある当時使われた道具類を見るだけでも、なんだか100年くらい前の時代に戻ったような感じもする。

商人屋敷の壁に沿うように、町にはところどころに、錦鯉などのいる水路が巡る。
訪れた日はちょうど、町全体でアートフェスティバルが開かれていて、きれいな水面に現代アート風の生け花がかざられていた。
そんな町並みは、鯉の泳ぐ水路と漆喰壁の取り合わせで、歩いていて、とても落ち着く雰囲気。
それもそう、商人屋敷と社寺が甍(いらか)を並べるこの金堂地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されているほど。

でも、こうしたお屋敷巡りも良いけれど、何といっても五箇荘の良さは、東近江の山々と田畑に囲まれたのんびり感だと思う。
近くには、繖山(きぬがさやま)のふもとの石馬寺(いしばじ)、
そしてその山の頂近くにある観音正寺(かんのんしょうじ)と、
ぜひ足を運びたい名刹もある。これから秋が深まるにつれて、いっそう風情がましてゆきそうな、近江商人屋敷の町、五箇荘の一日でした。
