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ものづくり

2014 / 08 / 27

和ろうそく「大與(だいよ)」

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和ろうそく「大與(だいよ)」

和ろうそく「大與(だいよ)」

今や、明かりの世界も電球からLEDへ変わりつつある。けれど、私たちが、ろうそくと出会う機会が、
まったくなくなったわけではない。例えば、お寺のお堂にともる灯明。暗い仏間を静かに照らすろうそくの明かりは、
心落ち着く。それとは逆に、誕生日のパーティで、ケーキの上に並んだ赤や緑の色とりどりのにぎやかなろうそく。
そして、ちょっとおしゃれなレストランのディナーのテーブルなんかに、色ガラスのランプを通して輝くろうそくの灯も良い。

今回訪ねたのは、湖西、近江今津の町で、今なお手造りで和ろうそくをつくり続けている「大與(だいよ)」(大正3年創業)というお店。
工房兼ショップをかねた建物があるのは、近江今津の駅から歩いて十分くらいのところだ。

ところで、和ろうそくと普通のろうそくと、どこが違うの? いちばんの違いは、原料。和ろうそくは、
櫨(はぜ)の木の実から採った蝋(ろう)が使われる。一方、私たちがふつうに目にするろうそくは、
石油化学原料のパラフィンから作られたもの。そして、明かりがともったときの違いは、和ろうそくの灯は風に強く、長時間、美しく輝き続ける点。

左|和ろうそく(下方)は、見た目もぜんぜん違う。 / 右|こちらは、女性に人気の絵ろうそく左|和ろうそく(下方)は、見た目もぜんぜん違う。 / 右|こちらは、女性に人気の絵ろうそく

ということで、さっそく、ろうそく造りの行われている工房を見せてもらった、もちろん、
制作の現場を見るのは初めてだったが、いや、びっくり、驚きました! ちょうど「大與」三代目の大西明弘(おおにし あきひろ)さんが
造っていらっしゃる様子を見学させてもらったのだけれど、大変な作業。細かな説明はちょっとはぶいて、
かんたんに言うと、写真のように、芯を巻きつけた串に、40℃くらいに熱して溶けた蝋をふりかけ、
それをだんだん太くしてゆくという作業。蝋をかけるといっても、下掛け、荒掛け、上掛けと、三つの工程に分かれる。
その上、溶かした蝋は、日によって、温度や湿度で少しずつ質感が違ってくるため、微妙な作業を強いられる。

三代目の大西明弘さん。溶けた蝋を手際よく、芯にふりかけて太くしてゆく三代目の大西明弘さん。溶けた蝋を手際よく、芯にふりかけて太くしてゆく

こうして今でも、昔ながらの和ろうそくづくりを続けているのは、全国でもここを含めて三十軒くらいだそう。
しかも、手造りのろうそくとなると、わずか十軒くらいに減ってしまうらしい。

歴史をうかがうと、日本にろうそくが入ってきたのは、遠く奈良朝の時代。ただ、今のように、
櫨(はぜ)の木の実から採った蝋が使われるようになったのは、江戸時代から。ちなみに、ろうそくの芯になるのは、
イ草の一種の「灯芯草」という植物の茎で、それを裂いて乾燥させたものに、和紙をまいて芯をこしらえるそうだ。

今回、お店の案内とお話しをうかがったのは、四代目の巧(さとし)さんにお願いしたのだが、
巧さんは、伝統のろうそく造りに精を出すとともに、新しい製品づくりへのチャレンジも怠らない。
そのひとつが、お米の糠(ぬか)を原料に作ったろうそく(写真)。捨てられることの多い糠を使った新製品は、
2011年度グッドデザイン賞の中小企業庁長官賞を受賞。純粋な植物性のため、環境にやさしく、
そして蝋(ろう)の垂れと油煙も少ないとのこと。加えて、巧さんが考案したパッケージも、
伝統的な部分とモダンさが組み合わさったとてもステキなデザインだ。

最後に和ろうそくのお値段だが、原材料の違いと手造りであることなどから、
同じような大きさのものでも、パラフィン製のふつうのろうそくと比べると、価格は高め。
でも、絵ろうそくなどは、飾っているだけでもきれいだし、例えば、パーティなどで、
和ろうそくの温かい明かりをながめつつ、みんなとワイワイというのも、きっと楽しそう

左|米糠を使った「お米のろうそく」 / 右|四代目「大與」社長 大西巧さん左|米糠を使った「お米のろうそく」 / 右|四代目「大與」社長 大西巧さん