三橋節子美術館
三橋節子美術館
美術館の大きさは、パリのルーブル美術館のような大きなものから、小さな個人美術館のようなものまでさまざま。けれど、私たちが美術館から持ちかえる感動の大きさは、その建物の大きさや収蔵品の数とは、あまり関係がない。
浜大津にある、この三橋節子(みつはしせつこ 1939?1975年)美術館は、訪れた人だれにとっても、生涯、忘れられない美術館のひとつとして、長く心に残るものとなるにちがいない。
美術の世界にかぎらず、若くして世を去った人の作品には、何かしら私たちはひかれるものがある。夭折(ようせつ)の理由は、戦争や病気、事故などさまざまだけれど、おそらくその短い生涯に、作家たちの凝縮された、エネルギーの結晶のようなものを、そこに感じるからかもしれない。節子は、鎖骨にできた腫瘍で、画家の命とも言える右腕を切り落とした上で、三十六年の短い生涯を終えた。
写真の「菩提樹」は、手術後まもなく左手で描いた作品。菩提樹は、自宅の裏山に植わっていたもので、釈迦誕生の話でもよく知られている木だ。樹齢800年もの老木が咲かせた花を節子が描いたのは、病がいえた後の再生を託したと見るのは、少し読み過ぎかもしれないけれど、白い可憐な花のわりに、不思議と生命感の漂った作品に仕上がっている。節子の作品といえば、近江の伝説によったもの、二人の子供を描いたものがよく知られているけれど、何点かあるこうした草花を描いた作品も、女性らしい穏やかなものに仕上がっていて、胸を打つ。
美術館は、京都方面から行けば、京阪電鉄の終点の浜大津港駅からでも、そのひとつ手前の上栄(かみさかえ)町で降りてもいい。季節の良い時期なら歩くこともできる道のりで、浜大津駅からでも、タクシーでワンメーターの距離。長等(ながら)公園という小高い丘の中腹に美術館はある。そこはまた、残された二人の子供、長男の草麻生(くさまお)と、妹のなずながよく遊んだところでもあるという。