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エッサイ

2014 / 12 / 14

人生のドア

人生のドア

毎年、この時期に、入賞者が発表される文章コンクールにかかわっているのだが、今回の大賞の受賞者は、ドイツ人の女子学生だった。コンクールのテーマは「言葉の力を感じるとき」だ。

たしかに、ひとつの言葉が、その後の人生を大きく変えることがある。受賞作によれば、ドイツでは、高校三年生時に、将来を決める進路の大きな選択をせまられるらしい。
彼女は、どんな道を選ぶべきか迷ったあげく、いったんは大学の門をくぐる。だが、やはり自分のやりたいことがあることに気づき、両親にも相談することなく、大学をやめてしまう。

自分のやりたい道に進むことにした決断のとき、彼女の背中を押してくれたのが、高校時代に英語の研修でマルタ島を訪れたとき、一人の英語教師が語ってくれた、次のような言葉だった。

「人生にはドアがたくさんあります。ドアの後ろには何があるか分からない。それが怖いと思うかもしれませんが、好奇心を持って、好きなドアを開けてみて下さい。
素敵な事が後ろにあるかもしれません。ドアの後ろに嫌なことがあったら、一歩下がって、そのドアをまた閉めてもいいんですよ。ぜひ色々なドアを開けて、人生でかけがえのない経験をして下さい」。

彼女がほんとうにやりたかったことは、日本語の勉強だった。きっかけとなった日本語との最初の出会いは、彼女がまだ子供のころ、
お父さんが日本旅行から持ち帰った日本語の辞書だったと言う。自分の夢を実現するために、彼女は大学をやめ、日本への二年間の留学を決めた。その留学中、そうした決断のいきさつを、日本語で書いた文章が、今回の受賞作だった。

今秋、帰国した彼女は今、母国ドイツの大学で日本学を専攻している。この週末、彼女は、京都で行われた授賞式にはるばるドイツから参加してくれた。ドアの向こうには、彼女が考えていた以上の素敵な世界が広がっていたのである。