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エッサイ

2013 / 05 / 03

ユーモア

ユーモア

ここ三年ほど、ある作文コンテストの審査員をやっている。コンテストのテーマは「恋文」。
英語に訳せばラブレターなのだけれど、恋人同士だけのやりとりではない。亡くなった父や母、
元気で働いて一家を養ってくれている現役のお父さんへ、あるいは、ペットや庭にやってくる鳥や虫にまで、愛着をもって書かれた恋文もある。

そんな中、応募の多いのが、昔の片思いの相手に何十年ぶりかに書くラブレターや、幼くして亡くなったわが子へ、
あるいは、病との闘いの末、力尽きた肉親への思いをつづった手紙などである。審査とはいえ、そうした作品は、切実な文章だけに、
こちらの気も重くなる。読んでいて、「生きていくということは、本当に大変だなあ」と、ため息をつくこともしばしばだ。

ただ、中には、そうした苦労や逆境を明るく跳ね飛ばし、私、負けずに元気にがんばってます!風の作品もある。
こんな作品に出くわすと、逆に、こちらもなんだかうれしくなる。ひょっとして本人は、無理して元気ぶっているのかしれないのだけれど、
読み手のこちらの方まで、勇気づけられる。そして、この苦労やネガティブな状況を跳ね飛ばす源は、決まってユーモアである。

今年の入賞作の中には、こんな作品があった。恋文の書き手は、老舗の酒蔵に嫁いだ女性で、恋文のあて先は、すでに無くなった義理の父である。
祖父から自分の夫へとバトンタッチされた酒蔵も、自分の息子の代には継がれず、とうとう店をたたむことになった。
そして、代々の店の跡地はアパートへと建て替えることに。手紙は、そうした責任を感じての、義父への詫び状でもある。
しんみりと読み進んでいると、手紙の終わりあたりにこうあった―「おじいちゃん、ごめんなさい。
アパートの名前、おじいちゃん達が、お酒の名前に使っていた銘柄を英語にして、グローリークラウンにしちゃいました・・・・」。
この一文で、作者と生前の義父との関係が、とても明るいものだったのだろうと感じられた。

ユーモアは、日々の暮らしの中では、軽くとれられがちだけれど、場合によっては、
尋常でない不幸さえも吹き飛ばす力を持っている。またそれは、ひとり本人のためだけにあるのではなく、周囲の人にも、生きていく勇気を与えることも少なくない。