今年の流行色という言葉をきっとどこかで聞いたことがあるはず。そのメッセージを、秋冬、春夏と、年二回、発信しているのがJAFCA日本流行色協会。 協会のジェネラルマネージャー大澤かほる(おおさわかほる)さんは、この仕事について二十年あまり。 世界の流行色を決めるインターカラー(国際流行色協会)会議参加メンバーの一人でもある。高校時代から夢は、将来、絵描きになることだったとか。 色彩のメッセンジャーとして現在の仕事は、天職とも言ってよい。 ―大澤さんは、美術大学の彫刻科ご出身という、ちょっと珍しいご略歴なので、まず、その話からおうかがいしたいのですが。 大澤―大学は、東京造形大学の彫刻科で学びました。先生は、佐藤忠良(1911~2012年)先生でした。入学試験のとき、 佐藤先生から「あなた、元気いいね」って言われて合格。でも、私は、彫刻を最後まで辛抱強く作るのが苦手で、劣等生でしたね。 美大を受験したのは、高校生のときに、私の絵をずっとほめてくれた先生がいて、それがきっかけでした。その意味では、 こうして色彩の仕事をしているのは、自分の好きな世界で働けているのかもしれませんね。 ―こちらの流行色協会は、まさに現代の流行色を社会に提案されているわけですが、ズバリ、今日的な色とは、どんな色なのでしょうか 大澤―ブルー?グリーン系ですね。画家のピカソの作品に、青の時代といわれる、少し暗い作品がありますが、そんな感じと言ってよいでしょう。 例えば、海の深い青色を見たとき、私たちは、得体の知れない不安に襲われます。また、空の青はきれいですが、これも手にとってつかむことのできない、 もどかしさのような気持ちを起こさせる色でもあります。手が届かない、あこがれの色だから、青い鳥は幸せの象徴でもあるのです。 ブルー、グリーン系は2007年位から提案し続けている色です。流行色は時代の声だと私たちは考えています。 カラートレンドを予測し伝える時、一番大事にすることは消費者の意識がどのように動いているかということです。 ブルー?グリーンが注目される今は、未来に対する期待と不安が交錯する、そういう時代性が表れていると言えますね。 2013年くらいまでは、こういった色が大事になると思います。 ―当然、こうした色調が、ファッションカラーなどに反映されるわけですね。 大澤―はい、例えば、婦人服の場合、アンケートをとると、たいていよく売れた色の結果は黒がトップになるのですが、 最近は、ネイビーブルーがトップです。これはちょうど、バブル崩壊直後の1991年がそうでした。ただ、それでは、ファッションは 青色ばかりが主となるかというと、そうではなくて、青と反対色の赤にも注目が集まりやすくなります。ダークレッドのような服を着れば、 逆に、目立つわけです。それと、赤は血液の色でかなりプリミティブな色もあり、こうした時代であればこそ、しっかりとした意志を感じさせる色でもあるからです。 ―では、時々の流行色を提案されるにあたって、どういう過程を経るのか、お教えいただけますか。 大澤―まず、世界の14か国が参加しているインターカラーという組織があります。来年は組織ができて、 ちょうど50周年になります。インターカラーは1963年に日本と、スイス、フランスが発起国となり設立しました。 インターカラーは年に2回開催します。そこに、加盟国の代表が集まりまして、今、各国の政治、経済、市場がどのように動いているか、 消費者の意識はどのように変わってきているかを報告した上で、各国から2年先の市場に提案したい色を発表します。 共通点と異なる点についてみんなでディスカッションをして、カラーコンセプトを立て、色選定を行います。そのメッセージを世界に向けて発信します。 今度は、それを受けて、半年後くらいに、また各国がそれぞれの国の流行色を、それぞれの国で発表するという手順になります。 日本流行色協会が発表した、2012年秋冬 メンズの流行色資料 ―よく、国によって色彩感覚が違うと言われますが、どうお考えですか。とくに、日本人の色彩感覚というのは、他の国とくらべてどうなのでしょうか。 大澤―日本人の色彩感覚はすばらしいと思いますよ。例えば、日本人の学生にグレーの色をぬりわけさせると、たいへん優秀だと聞いたことがあります。 江戸時代にいわれた四十八茶百鼠(ねずみ)という言葉がありますよね。当時、庶民のぜいたくは禁止ということで、幕府によって、着物の色が制限されたのですが、 そうした中で、工夫された色彩が、たくさんのバリエーションをもった茶色と鼠色だったのです。 それくらい日本人の色に関する感覚というのは繊細なのです。また、色彩感覚と言えるかどうかですが、日本文化の研究で知られているドナルド・キーンさんは、 「余情(よじょう)の美」ということをおっしゃっています。その意味は、実際にはそこに無いもの、また、無くなってしまったものに対しても、 そこはかとない美しさを感じるというもので、やはり日本人ならではの繊細さだと思います。 ―最後に、とくに最近の色彩変化について、感じることはありますか。 大澤―例えば、東京渋谷に建てられた「ヒカリエ」など、新たに建てられた商店建築では木の床が目立ちます。 木肌そのままの表情を生かした仕上げが多いです。「木質」の他にも果物の色、野菜の色のような、自然界にある植物や動物の毛皮に見られる色が好まれています。 環境保全の意味で、自然を大切にするという意識が強くなっているということもありますが、健康志向が高まっていることも理由のひとつです。 人間も自然の一部なのだという意識が自然な色に目を向けさせるのでしょう。今、「自然」という言葉はデザイン全体の大きなキーワードです。 前回、ゲストに登場していただいたプロダクトデザイナーの島村卓実さんによれば、デザインで一番大切なのは、色だと言う。 たしかに、私たちが生活する世界は、四次元であると同時に色のついた世界だ。例えば、遠くから、こちらに人が歩いてくる。女性なのか、男性なのか、 年恰好も最初はわからない。しかし、その人がどんな色の服を着ているのかは、一番初めにわかる情報である。私たちと色は、かなり原初的な関係にちがいない。 日本流行色協会の名前は、以前から知っていたし、気になる存在だった。一年半後の季節の色について語ることは、責任もあるし、またやりがいのある仕事だろうと感じていた。 その予言者(失礼)が、どんな人か一度、お会いしてみたいというのが、今回のゲストに来ていただいた動機だった。インタビューの部屋に、「こんにちは」と明るく、 大きな声であらわれた大澤さんを見たとき、「この人が決めているのだったら、いいか」と思った。
今年の流行色という言葉をきっとどこかで聞いたことがあるはず。そのメッセージを、秋冬、春夏と、年二回、発信しているのがJAFCA日本流行色協会。 協会のジェネラルマネージャー大澤かほる(おおさわかほる)さんは、この仕事について二十年あまり。 世界の流行色を決めるインターカラー(国際流行色協会)会議参加メンバーの一人でもある。高校時代から夢は、将来、絵描きになることだったとか。 色彩のメッセンジャーとして現在の仕事は、天職とも言ってよい。 ―大澤さんは、美術大学の彫刻科ご出身という、ちょっと珍しいご略歴なので、まず、その話からおうかがいしたいのですが。 大澤―大学は、東京造形大学の彫刻科で学びました。先生は、佐藤忠良(1911~2012年)先生でした。入学試験のとき、 佐藤先生から「あなた、元気いいね」って言われて合格。でも、私は、彫刻を最後まで辛抱強く作るのが苦手で、劣等生でしたね。 美大を受験したのは、高校生のときに、私の絵をずっとほめてくれた先生がいて、それがきっかけでした。その意味では、 こうして色彩の仕事をしているのは、自分の好きな世界で働けているのかもしれませんね。 ―こちらの流行色協会は、まさに現代の流行色を社会に提案されているわけですが、ズバリ、今日的な色とは、どんな色なのでしょうか 大澤―ブルー?グリーン系ですね。画家のピカソの作品に、青の時代といわれる、少し暗い作品がありますが、そんな感じと言ってよいでしょう。 例えば、海の深い青色を見たとき、私たちは、得体の知れない不安に襲われます。また、空の青はきれいですが、これも手にとってつかむことのできない、 もどかしさのような気持ちを起こさせる色でもあります。手が届かない、あこがれの色だから、青い鳥は幸せの象徴でもあるのです。 ブルー、グリーン系は2007年位から提案し続けている色です。流行色は時代の声だと私たちは考えています。 カラートレンドを予測し伝える時、一番大事にすることは消費者の意識がどのように動いているかということです。 ブルー?グリーンが注目される今は、未来に対する期待と不安が交錯する、そういう時代性が表れていると言えますね。 2013年くらいまでは、こういった色が大事になると思います。 ―当然、こうした色調が、ファッションカラーなどに反映されるわけですね。 大澤―はい、例えば、婦人服の場合、アンケートをとると、たいていよく売れた色の結果は黒がトップになるのですが、 最近は、ネイビーブルーがトップです。これはちょうど、バブル崩壊直後の1991年がそうでした。ただ、それでは、ファッションは 青色ばかりが主となるかというと、そうではなくて、青と反対色の赤にも注目が集まりやすくなります。ダークレッドのような服を着れば、 逆に、目立つわけです。それと、赤は血液の色でかなりプリミティブな色もあり、こうした時代であればこそ、しっかりとした意志を感じさせる色でもあるからです。 ―では、時々の流行色を提案されるにあたって、どういう過程を経るのか、お教えいただけますか。 大澤―まず、世界の14か国が参加しているインターカラーという組織があります。来年は組織ができて、 ちょうど50周年になります。インターカラーは1963年に日本と、スイス、フランスが発起国となり設立しました。 インターカラーは年に2回開催します。そこに、加盟国の代表が集まりまして、今、各国の政治、経済、市場がどのように動いているか、 消費者の意識はどのように変わってきているかを報告した上で、各国から2年先の市場に提案したい色を発表します。 共通点と異なる点についてみんなでディスカッションをして、カラーコンセプトを立て、色選定を行います。そのメッセージを世界に向けて発信します。 今度は、それを受けて、半年後くらいに、また各国がそれぞれの国の流行色を、それぞれの国で発表するという手順になります。 日本流行色協会が発表した、2012年秋冬 メンズの流行色資料 ―よく、国によって色彩感覚が違うと言われますが、どうお考えですか。とくに、日本人の色彩感覚というのは、他の国とくらべてどうなのでしょうか。 大澤―日本人の色彩感覚はすばらしいと思いますよ。例えば、日本人の学生にグレーの色をぬりわけさせると、たいへん優秀だと聞いたことがあります。 江戸時代にいわれた四十八茶百鼠(ねずみ)という言葉がありますよね。当時、庶民のぜいたくは禁止ということで、幕府によって、着物の色が制限されたのですが、 そうした中で、工夫された色彩が、たくさんのバリエーションをもった茶色と鼠色だったのです。 それくらい日本人の色に関する感覚というのは繊細なのです。また、色彩感覚と言えるかどうかですが、日本文化の研究で知られているドナルド・キーンさんは、 「余情(よじょう)の美」ということをおっしゃっています。その意味は、実際にはそこに無いもの、また、無くなってしまったものに対しても、 そこはかとない美しさを感じるというもので、やはり日本人ならではの繊細さだと思います。 ―最後に、とくに最近の色彩変化について、感じることはありますか。 大澤―例えば、東京渋谷に建てられた「ヒカリエ」など、新たに建てられた商店建築では木の床が目立ちます。 木肌そのままの表情を生かした仕上げが多いです。「木質」の他にも果物の色、野菜の色のような、自然界にある植物や動物の毛皮に見られる色が好まれています。 環境保全の意味で、自然を大切にするという意識が強くなっているということもありますが、健康志向が高まっていることも理由のひとつです。 人間も自然の一部なのだという意識が自然な色に目を向けさせるのでしょう。今、「自然」という言葉はデザイン全体の大きなキーワードです。