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2014 / 08 / 16

日吉大社芸術祭

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日吉大社芸術祭

日吉大社芸術祭

比叡山のふもとにある日吉大社は、およそ2100年の歴史をほこる、全国の日吉・日枝・山王神社の総本宮。
そうした由緒ある場所で、このゴールデンウィークにかけて(4月28日?5月12日)開かれたのが「日吉大社芸術祭」。
日吉大社の境内を中心に展開された現代アートの野外美術展と、義太夫(ぎだゆう)の宴イベントなど、さまざまな催しが繰り広げられた。今回は、そのうちの野外美術展に足を運んでみた。

その日は、少し花ぐもり気味だったけれど、この季節らしく、ちょうどよい気温。京阪の坂本駅から日吉大社に向けての、濃い緑の中の散歩は、最高の気分。
いつ歩いても、比叡山を真正面に見るこの参道は気持ちいい。つつじの鮮やかな紅色、そして、足元には、黄色いタンポポの花が咲きみだれ、まさに春爛漫ということばがぴったりだった。

これは、最近ではあまり見られない、カンサイタンポポという珍しい在来種だそう。これは、最近ではあまり見られない、カンサイタンポポという珍しい在来種だそう。

やがて、日吉大社の西本宮(にしほんぐう)側の入り口に到着。受付で、「今、芸術祭をやっていますから」と、しっかり案内パンフレットをもらった。
パンフレットには、展示場所の地図に番号がうたれていて、その数は、30とちょっと。思わずびっくり。
ということで、見落としのないように、パンフレットを片手に見ながら、あたりをきょろきょろしながらのスタートとなった。

ありました!入り口からすぐの石橋から川原を見下ろすと、左手に不思議な白い布が、川を横切るように渡してある・・・
作品名は、「出会いに行く」(日花治子)。澄んだ川の流れ、そしてそこにさしかかる木々の緑と合っていて、とてもいい感じ。

日花治子「出会いに行く」日花治子「出会いに行く」

さらに、石橋から反対側を見下ろすと、別の2作品が。こちらも、力作。これなら、ずっとこの川原に置いてあっても、ぴったりくる感じ。まさに神域ともよぶべき自然の中に、現代アートがしっくり溶け込んでいた。

下村千砂子「カッパの森」下村千砂子「カッパの森」
江藤佳央流「輪廻RINE黒御影石」江藤佳央流「輪廻RINE黒御影石」

そして、少し進むと道脇の林の間に、なんだかアニメのキャラクターのような不思議なものが。おそらくこれもアート作品? オモシロイですね。
ディズニーやスタジオジブリの世界を見ているような錯覚に。作品名は、見た通りの「MOCO MOCO」(浦由佳里)。

浦由佳里「MOCO MOCO」浦由佳里「MOCO MOCO」

なんだか、楽しくなってきました・・・。やがて、ふだんはあまり使われていないような、ところどころ木の繁った少し開けた空間へ。
あるある、よく見ると、その木々の間を縫うように、たくさんの作品が並んでいました。その中で、おもしろいと思ったものをいくつか。
例えば、この作品―「見つけること、感じること」(八田郁子)。私たちのふだんの生活と、こうした自然の環境の中にいることの、
微妙な重なり具合が、よく表されていると思った。同じような意味で、目をとめさせられたのが、作者の名前と作品名が同じ「きのしたじゅん」(木下順)。
まわりの木々と同じような形なのに、ちゃんと言いたいことがこちらに伝わってくる。

八田郁子「見つけること、感じること」八田郁子「見つけること、感じること」
木下順「きのしたじゅん」木下順「きのしたじゅん」

存在感を感じさせた作品といえば、この作品―北村信樹の「痕跡」。壮大な神社の大自然の中だけに、そこに溶け込みつつ、
その一方で、作品の主張をしなければいけないというむつかしさがある。そこをうまく納得させるかたちに仕上がっている感じがした。

そうした微妙なチューニングが一番うまくできていたと感じたのが、中村孝子の「特別人工記念物 アスパラガス自生地」。
ちょっと目につきにくい、道脇の斜面に置かれた作品だったけれど、周囲との調和、仕上がりの美しさ、そして俄然光った存在感、という点では、今回の作品群の中で、頭ひとつぶん、抜けていた感じがした。

左|北村信樹「痕跡」 / 右|中村孝子「特別人工記念物 アスパラガス自生地」左|北村信樹「痕跡」 / 右|中村孝子「特別人工記念物 アスパラガス自生地」

その他、ここに挙げたものだけでなく、楽しい作品、ガンバッテルナという作品、いろいろ見ることができました。感じたことは、少し触れたように、
舞台が日吉大社という由緒ある神社の境内だけに、その荘厳な空気にどこまで溶け込んで、そこからさらに自分の言いたいことが言えるかどうかということ。
それは、ちょっとむつかしいけれど、逆にいえば、やりがいのある、すばらしいステージが用意されているということかもしれない。

でも、第一回目から、そうした条件をうまくクリヤーし、感動を与えてくれた作品もいくつかあった。その意味では、たいへんな試みだったけれど、それに倍する、すばらしい収穫もあったように思った。